フィギュアメーカーが提案する“組み立てキット”の役割とは? 田中宏明(グッドスマイルカンパニー)、インタビュー【ホビー業界インサイド第32回】

2018年02月10日 12:000

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スケールモデルにも“感情移入”できるポイントは必要


── 80年代初期のガンプラブームは、スケールモデルで育った世代が牽引した部分がありました。それが今では昔話となって、ここ数年は「プラモデルの面白さって何だっけ?」と問い直されている気がしています。

田中 問い直されているのと同時に、各模型メーカーがさまざまなチャレンジをしていて、とても面白い時期に入っています。新規チャレンジでは先頭を走っていると思われるコトブキヤ、バンダイでもホビー事業部や食玩が実験的なことを始めている。カプセルトイの世界でも、ユニークな発想の組み立てキットがいくつか出てきていますよね。そこに模型畑ではない会社が参入すれば、もっと面白くなるはずです。「何が何でも模型にしなくてはダメなんだ」といった固定観念ではなく、「この価格感でこういう楽しみ方を提供したい」という発想が、とても柔軟になってきていると感じます。

── そのいっぽうで、改造・塗装こそがプラモデルの楽しみ方だという考えも根強いのではないでしょうか。

田中 僕も小学校の頃は、加工や塗装を夢見てトライしましたが、理想の域に達することはできないと気がついてしまって(笑)。だけど、どんなに下手でもキットを作ることが自分は楽しい。その「作って楽しい」の振り幅は、もっと広いんじゃないかと思うんですよ。たとえば、MODEROIDのマジンカイザーの関節部にABS樹脂が使われているのは、トイとしての遊びやすさや強度を重視しているからです。その半面、自由な塗装やカスタマイズも楽しんでもらえるようPS樹脂も多く使っています。マジンカイザーは千値練(センチネル)の合金トイ(RIOBOT)をモチーフにしていますが、単にトイをプラモデル化するのではなく、MODEROIDだけのキットバリエーションを想定しています。それなら、ガンダムのように「俺だったら、マジンカイザーをこう改造するぜ」と、ユーザーさんが自由に発想を広げてカスマイズしてくれるんじゃないでしょうか。

── なるほど、世界観まで考慮してのキット化なんですね?

田中 そうです。単に「あの名作ロボットを設定どおりにキット化しました、すごいでしょう?」で終わらせず、ダイナミック企画や千値練の方々と話しながら、自分でラフデザインも描きながらバリエーション展開を考えました。世界観やイマジネーションをふくらませないと、そこで止まってしまうんです。マジンカイザーだけでなく、MODEROIDでは「六神合体ゴッドマーズ」などもラインアップしていますが、懐かしのロボットだけでなく、2018年の新作アニメからもキット化を予定しています。


── 田中さんは、玩具とプラモデルの両方の開発に関わってきたわけですよね。どこに差を感じましたか?

田中 キャラクター玩具の金型は、極論ですが、初回もしくは1年で償却して捨てるぐらいの気持ちで作っているんです。金型に対する思想と作り方が、プラモデルとは大きく違います。そこそこフォルムがよくて組み立てられればいいと割り切れば、かなり安くできるんです。ですから、老舗模型メーカーの緻密な組みごたえを期待されると、GSCの組み立てキットはちょっと感覚が違うかもしれません。その違いは、根本的な企画の考え方の違いでもあるんです。

── ここにソユーズロケットのテストショットがありますが、手すりなどは太めにモールドしてありますよね。

田中 細くすればするほど、流れと圧力に応じて金型の精度を高めなくてはなりません。精密な金型で値段が上がってしまうよりも、ロールアウトから列車で輸送している状態、打ち上げ過程まで、各シークエンスを遊べるキットにしたかった。スケールモデルといえども、感情移入できるポイントが必要だと思ったんです。そういう意味では、ソユーズのキットも“オモチャ”なんです。これが正解というわけではなく、今後10年に向けてあらゆるチャレンジをしていきたい。新しい価値の創出って、自らが現場に飛び込んで泥にまみれてみないとわからないものなんです。



(取材・文/廣田恵介)
(C) 2001永井豪/ダイナミック企画・光子力研究所

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