10年経った中国での日本の新作アニメ配信、人気作品も規制も炎上もたくさんありました【中国オタクのアニメ事情】

アニメ2022-01-01 12:00

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は2022年最初の記事になるということなので、始まってから約10年が経った(という見方もできる)中国における日本のアニメの正規配信に関して、中国で配信されオタク界隈で人気になった作品や、さまざまな意味で大きな影響を与えた作品、規制や炎上の事件やその背景などについて年ごとにまとめてみようかと思います。

【2011年】 主な人気作、話題作:「NARUTO-ナルト-」「Fate/Zero」など


中国本土向けの日本のアニメの正規配信の動きがいつから始まったのかについては諸説ありますが、わかりやすく大きな動きとしては2011年の12月にテレビ東京が中国の動画サイトの土豆網(Tudou)で「NARUTO-ナルト-」「BLEACH」「SKET DANCE」の配信を始めたこがあげられます。

中国では00年代半ば頃からの規制強化により、テレビで日本のアニメを放映するのが困難になっていましたが、動画サイトでは日本のアニメ、それも一般向けの作品だけでなくオタク向けの新作アニメも配信する動きが出てきました。
これに関してはインターネットが新しいメディアだったことから、当時の中国でもまだ管理が比較的ゆるく、管轄の混乱やグレーゾーンが少なくなかったという背景も影響していたようです。

それから同時期に行われていたほかの興味深い動きとしては、「Fate/Zero」第1期のニコニコ動画での中国語(簡体字、繁体字ともに)を含む8か国語字幕付き配信もありました。「Fate/Zero」という中国のオタクの間でも注目されていた作品が、公式に中国語字幕を付けて配信されるというのは、当時の中国でも大きな話題となりました。
もっともこの配信は、規制の関係上、中国本土からは見るのが難しく、話題にはなったものの視聴者の数はそれほど伸びなかった模様です。

ちなみに「Fate/Zero」の配信に関しては、その後第2期が商業化前の「bilibili」による配信が行われることになりまた大きな話題となりましたが、こちらも現地での許可的な問題からか、突然配信中止になった……と思いきや、ラスト3話で別の動画サイトである「楽視網(LeTV)」で配信されるといった動きもありました。
「Fate/Zero」は中国で一時代を築いた大人気作品ですが、当時の中国は、まだ現地のファンサブグループ、通称「字幕組」による違法アップロードの全盛期で、公式配信による影響はあまりなかったようです。しかし配信に関してはさまざまな試行錯誤が行われていたようですし、その後の中国における日本のアニメの正規配信の定番スタイルにつながる動きも見て取ることができます。

また正規配信にあたっては、ライセンスを購入して配信を行う現地の動画サイトが、中国国内の違法アップロード動画に対処するようになったことから、それまでコストや手続き的な問題などにより取締りが困難だった中国における違法アップロード問題に対して効果的な取り締まりが行われるようになっていったという側面もありました。


【2012年】 主な人気作、話題作:「ソードアート・オンライン」「這いよれ! ニャル子さん」など


この年は、日本政府の尖閣諸島の国有化を発端として、中国国内で発生した反日デモや暴動がさまざまなオタク分野の活動やビジネスにも影響しました。
当時「日本からゲストを招いて開催」というモデルも確立され急増していた、中国本土におけるオタク関係のイベントにも急ブレーキがかかりましたし、2010年から展開されていた角川系の資本が入った合弁会社「広州天聞角川動漫有限公司」による日本のライトノベルの翻訳出版も規制の影響を受けることになりました。
そしてその結果、中国本土でのイベントを手がけていたところは大きなダメージを受け、当時現地のオタク向け市場を開拓しつつあったライトノベルの翻訳版の正規出版の動きも止まってしまったそうです。

しかしその陰で、中国のネット動画サイトにおける日本のアニメの公式配信に関しては拡大傾向にあったようです。日本のアニメの正規配信を行う動画サイトが増え、配信される作品も増加していきました。「ソードアート・オンライン」のように、現在も中国で人気の続いている作品もこの年、配信が始まっています。
また、中国に「クトゥルフ」ネタが広まる際の入門作品のひとつとなった「這いよれ! ニャル子さん」など、意外な人気に加えて、思わぬ形で大きな影響を与えるような作品も配信されています。もっとも「ニャル子さん」に関しては、中国で配信される際にカットされたお色気シーンも少なくなかったそうで、中国のオタクな人たちにとっては正規配信によるもどかしさをかなり意識してしまう作品でもあったそうです。


【2013年】 主な人気作、話題作:「進撃の巨人」「黒子のバスケ」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」など


2013年頃になると日本のアニメの配信環境も整ってくるとともに、中国で爆発的な人気となる正規配信作品も出現します。
この年は「進撃の巨人」「黒子のバスケ」が中国でも大人気になり、オタク界隈だけでなく一般レベルでも何かと話題になっていました。また「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」が日本と連動した中国現地での展開も含めて人気を獲得するといった、これまでにない動きもありました。

しかし「進撃の巨人」に関してはその大人気とともに、「登場人物のモデルが秋山好古」「秋山好古は中国では旅順虐殺事件の関係者として非常に扱いが難しい人物」という中国特有の事情からの強い批判と大炎上も発生してしまいました。
こういった作品の内容に関する炎上は「進撃の巨人」に限った話ではなく、この後もさまざまな作品で発生することになります。これは正規配信によって一般寄りの視聴者が増加したことも原因のひとつで、何かと注目の集まる人気作品に関しては、オタクなファンの間だけならば許容される、局地的なものに留まっていた炎上問題が、大炎上に発展するようになっていきます。

またこの時期は、中国の動画サイト業界の競争が激化し、中国国外のコンテンツの配信が競争のカードとして重要になってきたことから、日本のアニメの価格も急上昇していったそうです。中国でも原作人気が非常に高かった「黒子のバスケ」も、当時は番組獲得の費用が最終的にどこまでふくれ上がるのか話題になっていたそうですが、最終的には複数サイトでの共同配信という形に落ち着きました。


【2014年】 主な人気作、話題作:「ラブライブ!」「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」など


この年も引き続き日本のアニメ配信は好調で、さまざまな人気作品が出ましたが、なかでも大きな存在となったのは「ラブライブ!」でした。アニメ第2期の配信とともに中国本土でも人気が急速に拡大。歌やライブの映像が衝撃を与え、中国に新しいジャンルや作品の楽しみ方を植え付けることに。当時の中国のオタク界隈では、ネタと畏怖の混じった「邪教」という呼称が出てくるレベルの人気伝播力をもっていました。

当時の中国では、中国国外のコンテンツ全般で番組価格の高騰が止まらず、日本のアニメの価格も上昇を続けていたそうです。この年の話題作でもあった「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」などは、その価格高騰の頂点に重なるような時期の人気作品だったことから、現地の業界では人気だけでなく価格についても何かと話題になっていたそうです。

またこの年は、ニコニコ動画的な弾幕コメントと字幕組によるファンサブを中心に中国最大規模のオタク系コミュニティを獲得していたbilibiliがアニメの正規配信に参入し、その後の中国のオタク業界、いわゆる二次元分野におけるビジネスでも大きな存在となっていきます。

しかしこの時期になると、中国では各所から外国産コンテンツの管理を厳しくしようという動きが出てくるようになり、中国の動画サイト界隈の勢いも怪しくなってきます。特に9月に政府から出された、翌年(2015年)4月から始まる外国産コンテンツの審査許可厳格化に関する通知以降は、日本のアニメの配信に関しても何かと不穏な空気が漂い出しました。
後から考えてみると、この年が中国における日本のアニメ配信の盛り上がりの頂点のひとつだったのでは……という見方もあるそうです。

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