シリーズ最新作「バイオハザード ヴィレッジ」を徹底レビュー! 質の異なる4つのホラー、パワーアップしたアクションに、父の物語……。

ゲーム2021-05-25 17:15

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「バイオハザード」シリーズ最新作「バイオハザード ヴィレッジ」(以下、「ヴィレッジ」)が、2021年5月8日に発売された。「バイオハザード7 レジデント イービル」(以下、「バイオ7」)の続編であり、主人公イーサン・ウィンターズの物語が描かれる。今回は、筆者が本作をクリアしたうえでのレビューをお届け。ストーリーに関わるネタバレは極力抑えているので、未プレイの人も安心してほしい。

4人の貴族と4つの恐怖



「バイオ7」で起こったベイカー邸事件から3年後。主人公のイーサン・ウィンターズは、妻のミア、娘のローズとともに新たな生活を送っていた。そんなあるとき、クリス・レッドフィールドが突如ウィンターズ家を襲撃。ミアを殺し、ローズをさらってしまう。愛娘を取り戻すため、イーサンはヨーロッパの寒村へと足を踏み入れる。



公式サイトや公開中のトレイラーで判明しているとおり、本作には4人の貴族が登場する。寒村の集落を中心に城、館、湖、工場があって、それぞれに居座っている貴族たちを倒していくのが、「ヴィレッジ」の物語の軸となる。2メートルをゆうに越える身長のドミトレスク夫人、人形使いのドナ、異形の姿をしたモローに、身の丈ほどの鉄槌を軽々と振るい念力じみた力まで使うハイゼンベルク。強烈な個性を放つ面々は、一見どこにでもいそうな人物が襲い来る「バイオ7」とは対照的と言える。


前作「バイオ7」で登場したベイカー一家。外見だけ見れば、一般人と大差ない


人物的な造形だけでなく、ホラーに関しても「バイオ7」とは明確な差別化が図られている。序盤で訪れる寒村は広々としており、ライカンという人とも狼ともとれる化け物が徘徊しているいっぽう、先に進むとドミトレスク夫人と3人の娘が住む城に入り、彼女たちと戦いながら必死で探索していたと思えば、今度は霧深い谷の先の館に向かう。


ステージごとにホラーの方向性が大きく異なり、前半は、追われる恐怖や精神的な恐怖を中心としたホラー寄りのアクション、後半は、強大な敵や群れと戦う恐怖を軸にしたアクション寄りのホラーといったところ。私見だが、前半部分はシリーズでいう「1」~「3」、「7」を、後半部分は「4」~「6」を彷彿とさせ、いずれのステージにも、過去のナンバリング作品で描かれた怖さに通じるものがある。4人の貴族を倒すことは、「バイオハザード」シリーズのおさらいを兼ねているのかもしれない。化け物から逃げつつ一般的な民家を探索するという閉塞感や、人間の狂気を表現した内面的な恐怖、虫を用いた生理的な恐怖など、全編を通して陰鬱な印象が強い「バイオ7」とは大きく違う。



本作では音にこだわっている点にも注目したい。雪や泥の上を歩くとき、ドアの開閉、ライカンを始めとするクリーチャーのうめき声などは、世界観に溶け込むようリアリティを重視し、主張しすぎないようバランスが図られている。BGMが流れていない状況で、耳をすますと、とてもわかりやすい。正直、こうした要素は周回プレイをするうえで気づいた部分も多かった。それだけ「背景」として完成していることの裏返しかもしれない。


後ほど詳しく書くが、防御からの反撃を始めとするアクションやRPG的な要素の導入で、公式に発信されているとおり、本作は「バイオ7」と比べてホラー要素は控えめになっている。とはいえ、それは全体として見た場合であり、一部のステージに関して前作はおろか、シリーズ随一の怖さ。ホラー面もまったく手が抜かれていないので、そこは「バイオハザード」シリーズのファンの方も安心していただきたい。


「4」と「7」。アクションとサバイバルホラー



先に述べたように、本作ではゲーム的な新要素がふんだんに盛り込まれている。倒した敵がアイテムやお金を落とし、ためたお金で商人のデュークから武器や弾薬を購入したり、武器自体を改造したり、あるいは集めた食材をデュークに渡してイーサンのステータスを強化可能な料理を作ったりと、内容はさまざま。取引なのでお金はいるが、弾薬やアイテムを浪費して窮地に追い込まれても、立て直すチャンスがある。手持ち次第で詰みもありうる「バイオハザード」シリーズとしては、このような計らいは初心者にとってありがたい。



イーサン自身には、防御からの反撃といったアクションが追加され、誘爆するタルや目くらましに使える小麦粉といった、プレイヤーに有利なオブジェクトも各所に配置されている。攻撃手段が増えたことでプレイヤーが「バイオ7」よりも積極的に戦えるようになった。敵を片っ端から倒してお金や宝を回収し、デュークのもとで戦力を整えるという豪快なプレイもできる。だが、敵もデュークの商品にも当然限りがある。考えなしに戦っているとあっという間にピンチになってしまう。また、過去作のように敵の頭や足を撃ち、体勢を崩したところに体術をしかけるということまではできないため、複数のライカンを一度に相手取るとかなり不利。そもそもライカンは身体能力が高く、離れた間合いもすぐに詰めてくるので1体だろうが油断できない。前作より主人公は強くなったものの、あくまで一般人の延長線くらいのバランスがよく効いていて、恐怖を増幅させている。


本作ではアイテムボックスの代わりにアタッシェケースが実装されており、プレイヤーは武器やアイテムのスペースを考えながら物語を進めていく


弾薬を管理し、倒す相手を選びながら戦い続ける「3」以前のサバイバルホラーから一転、アクションとホラーの両立を図る作風は「バイオハザード4」(以下、「バイオ4」)を思わせる。舞台となる村や、アイテムの売買をしてくれる商人、アイテムを収納するアタッシェケースといった要素からも、同作が「ヴィレッジ」に多大な影響を与えていることがうかがえる。


商人のデューク。希少なアイテムを売ると喜んだり、店の前で銃をぶっ放すと武器を褒めたり、弾丸の浪費をたしなめたりと、作り込みも細かい


舞台となるフィールドにはお宝が散らばっており、デュークが高値で買い取ってくれる。「このアイテムをあそこで使えば……」、「この段階であそこに行くとどうなるだろう」といったゲーム的な思考に応えてくれるかのように財宝が置かれているので、探索の楽しみも大きい。初見の筆者があちこち寄り道して、クリアにかかった時間は約9時間半。後ほどタイムアタックを試したところ2時間半くらいで終わった。要領を得ていたとはいえ、約7時間という差を鑑みるに、やり込み要素はかなりのものだ。クリア後は、敵を倒してスコアを稼ぐ「ザ・マーセナリーズ」や、本編で使える「無限弾」などの各種要素も開放されてゆく。長く遊べる配慮が凝らされているのもうれしい。


ちなみに、私はPS4 Proで本作を遊んだが、各ステージに向かうエレベーターに乗っているときを除いて、ロード時間がほぼかからなかったのも印象的だった。急いで建物内を移動していると一瞬暗転することもあったが、5周目を終わらせた現時点ではそれも片手で数える程度である。セーブにかかる時間はだいたい1秒未満と短く、最初はきちんとセーブされているか不安になったくらいだ。エレベーターの上り下りをロードに利用しているのは、各エリア間で発生するロード時間をドアが開く演出に代えた第1作「バイオハザード」を思わせる。



一方で「バイオ7」の要素も軒並み続投している。プレイヤーが操作キャラクターと同じ視点でゲームを進める「アイソレートビュー(1人称視点)」、特定の素材を組み合わせてアイテムを作り出す「クラフト」は健在。前作同様のサバイバルホラーが楽しめる。特に1人称視点は新たな「バイオハザード」の象徴とも言うべきもので、「バイオ7」や「ヴィレッジ」の怖さを増幅させている要素のひとつである。



これまでの「バイオハザード」シリーズでは、クリスやジル、レオンのようなヒーローたちが惨劇に立ち向かい、プレイヤーはそれを助ける手足として、肩越しにキャラクターたちを操作してきた。ヒーローたちと3人称視点(TPS)がフィルターのような役目となって、プレイヤーの感じる恐怖を肩代わりしていた。「バイオ4」以降は、アクションがより重視された結果プレイヤー側が強くなったこともあり、極限状態のサバイバルは、強調されてもホラー面は薄れていたように感じる。



そうしたシリーズの現状から打って変わり、サバイバルホラーを問い直す新たな「バイオハザード」として、「バイオ7」はプレイヤーたちに衝撃を与えた。素人同然の非力な主人公、遅めの移動速度や無駄を排除したUI(ユーザーインターフェース)を始めとする、頼れるものの少ない操作環境、プレイヤーがキャラクターと同じ視点になる1人称と、恐怖を助長する要素が満載だった。シリーズ屈指のホラーを生み出した「バイオ7」をベースにしつつ、アクション寄りのバイオハザードとして新たな方向性を打ち立てた「バイオ4」のよさを融合させたのが、本作「ヴィレッジ」というわけだ。


「バイオハザード」の世界にも一般人はいる



アークレイ山地の洋館から始まった「バイオハザード」も、シリーズを重ねていくにつれ、工業都市、一国、世界といった具合に物語の規模を広げてきた。おなじみの主人公たちを操作して世界を舞台に活躍するのは楽しいが、それに慣れると、ゾンビのひとりやふたりなんとも思わないし、そうした存在の餌食になる一般人に気が回りにくい。彼らは、恐怖を醸すための必要な犠牲でもある。物語である以前にゲームなので、そこはしょうがない。


「バイオ7」と「ヴィレッジ」では、その一般人であるイーサン・ウィンターズが主人公となった。両作は、イーサンを通して描かれた一般目線の「バイオハザード」だった。顔も経歴もろくにわからない彼が、「バイオ7」ではミアのためにベイカー邸に行き事件に巻き込まれ、「ヴィレッジ」ではローズのためにみずから死地に向かう。彼の動機は家族への愛であり、バイオテロの根絶を掲げるクリスたちに比べてとても小さい。だがその一般人の小さな戦いは、普遍的で、プレイヤーにとってむしろ身近なものだ。父として戦う彼に、自分を重ねたプレイヤーもいるだろう。描かれていないだけで、過去の惨劇でイーサンのような状況に置かれた人はたくさんいたはずだ。そう思うと、2作続いた新生バイオハザードも、れっきとしたシリーズの一部であるとわかる。



魅力的なキャラクターたちがいて、シリーズの地位が確立されていたにも関わらず、本格的なサバイバルホラーに舵を切ったことは当時衝撃だった。イーサンの物語が完結する「ヴィレッジ」は、「バイオ7」の多くを引き継ぎながらも「バイオ4」譲りの要素も盛り込み、サバイバルホラーとアクションをバランスよく、巧みに構築している。ホラーとしての「バイオハザード」が好きな人も、「バイオハザード」といえばアクションという人も満足できるはずだ。

 

(文・夏無内好)

 

 

  • 【作品情報】
  • ■バイオハザード ヴィレッジ
  • ※バイオハザード ヴィレッジ Z バージョンも同時発売
  • ジャンル:サバイバルホラー
  • 発売日:2021年5月8日(土)
  • 対応ハード:PlayStation5、PlayStation4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)
  • <価格>
  • パッケージ版
  • 通常版:税込8,789円
  • コレクターズ エディション:税込31,669円
  • ※パッケージ版はPlayStation5、PlayStation4のみ発売
  • ダウンロード版
  • 通常版:税込7,990円
  • デラックス エディション:税込8,990円 ※PC版のみ税込9,104円
  • バイオハザード ヴィレッジ&バイオハザード7 コンプリートバンドル:税込9,990円
  • トラウマパック(別売DLC):税込1,300円
  • ジャンル:サバイバルホラー
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:「D」(17才以上推奨)
  • ※同時発売の「Z バージョン」は「Z」(18才以上のみ対象)

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