今世紀の中国のオタク界隈、業界に大きな影響を与えてしまった十大作品【中国オタクのアニメ事情】
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は2021年最初の記事ということで、これまでの中国のオタク関連の歴史を振り返ってみようかと思います。
中国には1980年代から日本のアニメが本格的に入っていきましたが、中国におけるオタク層の活動が本格的に始まったのは2000年代半ば頃からなので、「オタク」という方面に関する影響が大きく、さらにわかりやすいのは、主に今世紀に入ってからの作品になるかと思われます。
そんなわけで
「今世紀、中国のオタクな面々やオタク関連業界のクリエイターなどに大きな影響を与えてしまった十大作品」
といった形で、中国オタク史的な重要(だと思われる)作品を紹介させていただきます。
今回は人気の大きさよりも影響力の大きさを重視して選んでいるので、その作品が当時の中国で一番人気があったとは限りません。たとえば、人気の時期やファン層に重なるところもある「NARUTO -ナルト-」と「BLEACH」と「銀魂」であれば、当時の中国で圧倒的な人気だった「NARUTO -ナルト-」ではなく、中国国産アニメに対しても大きな影響を与えた「銀魂」を選ぶといった形になっています。
また主に「中国のオタク界隈」「二次元業界」方面へ注目して選んだため、中国の一般社会での影響も大きく、すでにさまざまなところで評価が語られているジブリアニメや「君の名は。」などの作品は外させていただきました。それから申し訳ないですが、作品を中心にまとめたため、「初音ミク」のような存在も外させていただきました。
前置きが長くなってしまいましたが、それでは以下に大まかな年代順に、「今世紀、中国のオタクに影響を与えてしまった作品」を紹介させていただきます。
「げんしけん」は、中国の若者に「オタクとはいかなるものか」「オタクとは何をすればいいのか、どのようにして楽しめばいいのか」といったオタク像を提示した作品で、中国における「オタク」のイメージが形成される過程において非常に大きな影響を与えた作品だそうです。
私自身の記憶でも当時のオタクな中国人の面々にとって「げんしけん」はオタク像を模索する際の指南書となっていましたし、この作品から受け取ったオタク像によってさまざまな「オタク」を目指す動きが生まれていました。
オタクの活動の基礎が存在しなかった00年代中盤~後半頃の中国では、すべてが手探り状態でさまざまな混乱や障害にぶつかりながらオタクというものが模索されていました。当時は「オタクの活動」の中で、比較的手頃に始められそうなコスプレをやってみる人もいれば、同人誌の制作にチャレンジして大学の印刷所までも活用して形にしようと頑張る人もいました。
また、ほかにも当時、オタクとしての活動のシンボルのように見られていた日本のコミケへの参加を目指して実際にサークル参加を実現したり、中国国内でのイベント開催を実現した大学のサークルなどもありました。
「げんしけん」で伝わったオタク像やオタク関連の活動が、現在の中国の二次元業界、オタク分野の盛り上がりに至るまでには、その後さらに幾つかのステップと迷走を経ることになりますが、中国におけるオタク文化の第一歩、「オタクとは何か」という中国人の疑問にひとつの回答を示した「げんしけん」は、中国におけるオタクの歴史を語るうえで避けては通れない作品になっているかと思われます。
ちなみに「げんしけん」のほかにも、当時中国の若者のオタク像に影響を与えた作品としては、同人創作活動のイメージを提示した「こみっくパーティー」や、オタクネタの扱い方やオタクとしてのアピールを描写した「らき☆すた」などがあるそうです。
中国のオタクな面々にとってのオタクの入門のための作品、オタク系コンテンツ布教の作品として活躍したのが「フルメタル・パニック? ふもっふ」です。
この「ふもっふ」はシリアスな本編とは異なり、鍛え上げられたプロの兵士でありながら一般常識が抜けている主人公の相良宗介が、平和な学校生活で騒動を巻き起こすコメディ作品となっています。このテーマの組み合わせが当時の中国の若者にとっては非常にわかりやすいものとなっていたようで、作品のクオリティも相まって誰もが笑って楽しめる作品として受け入れられたそうです。
中国のオタク界隈では軍事関係のネタに関する食いつきが非常によいのですが、これは中国では国防教育が熱心に行われていて、小中高大と軍事訓練も必須となっていることや、日常的に接する軍事関係のニュースやコンテンツの量も多いことなどから、日本の感覚と比べて軍事ネタが非常に身近で共通の話題になりやすいといった事情が影響している模様です。
そんなわけで「フルメタル・パニック」は、中国の若者にとってオタクの知識や感覚がなくてもスムーズに入り込める作品となっていたそうで、特に「ふもっふ」は中国の感覚による笑いのツボも刺激する作品として「誰に勧めても外さないアニメ」「オタクじゃない人に見せるオタク向けアニメ」として重宝されていたという話です。
ちなみに現在の中国においても「フルメタル・パニック」の影響は時おり目に付きます。たとえば中国のネットを中心に「SFチックな技術」や「すごいプログラム」、「チートツール」など広い範囲に対して使われるあおり文句に「黒科技」という言葉がありますが、これは「フルメタル・パニック」の作中で使われている「ブラックテクノロジー」が元ネタだそうです。
この「フルメタル・パニック」から広まった「黒科技」という言葉が、中国のオタク界隈ではほかの作品の設定におけるSF的な設定、科学技術に対しても使われるようになり、さらにその使い勝手のよさからネットユーザーや中国国内の企業が使いまくったことなどから、中国における現代用語的な言葉として定着してしまったものなのだとか。
機動戦士ガンダムSEED/機動戦士ガンダムSEED DESTINY
現在の中国本土におけるガンダム人気の基礎を作ったのが「機動戦士ガンダムSEED」と「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」です。実は中国本土でガンダム人気が本格的に盛り上がったのは、香港や台湾などほかの中華圏と比べてかなり遅く、「SEED」以前はガンダムに関する一定の知名度はあったものの、作品に思い入れのあるファンはそれほど多くないといった状況が続いていました。
現在の中国ではマニアを中心にいわゆる宇宙世紀系のガンダムの人気も高く、「Z」や「UC」、「第08MS小隊」といった作品のファンが多いという話も聞きます。ですが、ガンダム人気の基礎となっているのはやはりSEED系で、主人公のキラ・ヤマトとフリーダムおよびストライクフリーダムは、「中国のオタクにとってのファーストガンダム」的な人気となっているのだとか。
また作品周辺では、中国で「伝統的」な趣味だった模型趣味が「SEED」から本格的に盛り上がり、中国本土におけるガンダム人気と結びついて、ガンプラ人気やオタク趣味としての地位を形成することにつながったそうですし、キャラクターの人気から女性のファン層や、女性向け二次創作の需要も開拓することになったそうです。
近年の中国では、オタクの世代交代や人気ジャンルの移り変わりからガンダム系コンテンツの勢いは昔ほどではなくなっているようですし、現在の中国のオタク界隈で元気な世代からは、「ガンダムは上の世代の作品」といった扱いをされることもあるそうです。
しかし定番のジャンルとしてのガンダム、定番の趣味としてのガンプラといった扱いは相変わらずで、ガンダム、ロボットアニメが何かと刺さる話題になっているのは間違いないようです。
ちなみに私はSEEDシリーズの放映当時は中国に留学中だったので、リアルタイムでの視聴はできなかったのですが、当時の中国に非正規ルートで入っていた作品を追いかけていた人はかなりいたようです。
留学先の大学で開催された日本人留学生と中国人学生の交流会では、この「ガンダムSEED」の話題で盛り上がったこともあるのですが、当然ネタバレの配慮などもなく、個人的に初めて中国人からネタバレをされたアニメ作品としても印象に残っている作品ですね。
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