アニメライターによる2020年秋アニメ中間レビュー【アニメコラム】
「ラブライブ!」といえば廃校である。第1作の音ノ木坂学院は初っ端から廃校の危機に見舞われ、第2作の浦の星女学院は物語半ばで統廃合が決まってしまう。だが虹ヶ咲学園は廃校にまつわるドラマチックな物語とは無縁でありながら、過去の舞台以上の存在感を放っている。それはあの建物が学校などではなく、実際には展示場として使われていることを、我々はよく知っているからだろう。
どう見ても学校ではない場所を学校として描く。その行為が単なるペテンではなく、ある種の信念を持って実行されていることは、スクールアイドルたちのライブを見れば明らかだ。本作のライブパートは本編から独立したMV(ミュージックビデオ)の要素を含んでおり、歌唱中に舞台が次々と変化していく。平凡な階段はステージのセットになり、固い床からは豊かな草花が生い茂り、さらには灼熱のマグマさえも吹き上がり、観客の心を奮い立たせる。つまりスクールアイドルの歌は世界を変えてしまう力を持っているのだ。タイトルに校名が冠されているのも、彼女たちが変えた場所を高らかに示す宣言に他ならない。
魔王城に幽閉されたスヤリス姫が快適な睡眠環境を得るために城内を散策するファンタジーコメディ。上等な枕から始まり、ベッドやランプ、蚊帳、お風呂など、さまざまな安眠グッズをDIYするスヤリス姫が実にキュート。自作グッズに満足してぐっすり眠り、深い呼吸で体が上下する様子までていねいに描かれている。
そんな姫に振り回され、ときにはグッズの素材になってしまうモンスターたちもバラエティ豊か。巨大なハリネズミのような外見でぷっくりとしたお腹が特徴のはりとげマジロ、モフモフの胸毛を蓄えたレッドシベリアン・改、くまのぬいぐるみのようなお世話係のでびあくまなど、思わず触ってみたくなる魔物が勢揃い。作品を見ていると寝具を買い換えたくなったり、安眠のツボを押したくなったりすること請け合いの作品だ。
アニメ制作会社・MAPPAが手がけるオリジナルタイトルは日本体操界が舞台。かつては「サムライ」の愛称で呼ばれたメダリスト・荒垣城太郎が再起をかけるストーリーというと、同社が手がけた「ユーリ!!! on ICE」を彷彿とさせるが、本作は2002年と一世代前の物語。キャスト陣が歌う主題歌「上海ハニー」をはじめ、多摩川のタマちゃん、ガングロギャル、着メロ、カラーギャング、ベッカムヘアと、00年代前半のありとあらゆるブームが盛り込まれ、必要以上のシリアス展開を和らげる清涼剤となっている。
小学4年生の娘・玲と居候の忍者マニア・レオナルドが映画好きのためか、ハリウッド映画に使われた洋楽が挿入歌として使われているのもポイント。オンエア版でしか聴くことができないので、土曜深夜の放送を楽しみにしたい。
2006年から続く「鷹の爪団」が11年ぶりに深夜アニメに返り咲き。これまでの1話完結型ではなく連続もののストーリーで、言葉だけで他人を操れる呪文「ゴールデン・スペル」をめぐる陰謀を描く。何と言っても注目はコロナ禍が表現されていることだ。団長がバイトをクビになったり、ソーシャルディスタンスを保った世界征服をしたり、悪の秘密結社は持続化給付金の対象外という職業差別を受けたり……。FLASHアニメとして誕生した本作の軽快なフットワークが最大限に生かされている。
オンエア版では日清食品とコラボしたCMもオンエア。毎回異なる製品を宣伝しており、飯テロアニメとしての一面も備わった。反省会アニメとして公式YouTubeチャンネルにもアップロードされているので、そちらも忘れずに視聴しよう。
アニメと土下座という日本の二大文化がついにコラボレーション。主人公・土下座(どげすわる)が女の子に泣き付いて、不純なお願いを叶えてもらうショートアニメだ。主人公の姿は描かず、ターゲットの女の子だけが映るという、一人称視点風の画面構成を採用。だがそのレイアウトにありがちな無口な主人公ではなく、マシンガントークでウザいぐらいに拝み倒していく。
キャストは杉田智和が担当。その必死な懇願にほだされて、女の子があられもない姿を見せてくれるという展開にも説得力が生まれており、この押しの強さがあれば人生変わっていたのではないかと考えさせられる。目的を達成したら秒で立ち去る引き際の美しさも見習いたくなる一作。
(文・高橋克則)
(C) プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
(C) 熊之股鍵次・小学館/魔王城睡眠促進委員会
(C) 「体操ザムライ」製作委員会
(C) DLE
(C) ふなつかずき / DMM pictures
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