アニメライターによる2020年夏アニメ中間レビュー【アニメコラム】
魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~
二千年の時を経て復活した魔王アノス・ヴォルディゴードが、魔王候補を育てる学院デルゾゲードに通う学園ファンタジー。アノスは圧倒的な力を持ち、いつも傲岸不遜なのだが、それでも好人物のように見えるのは家族愛に満ち溢れているからだ。生意気な皇族の兄弟に家族の絆を説いたり、ヒロイン姉妹の仲を取り持ったりと、己の力を家族関係の修復のために使う姿からは、暴虐の魔王という二つ名に反してやさしさが感じられる。
アノスの強さを裏打ちするゴージャスな映像も見どころで、魔法のエフェクトや魔法陣までていねいに表現された。指を鳴らすだけで相手を殺し、その直後に蘇らせて死の苦痛を何度も味わわせる第1話のバトルシーンは、彼が絶対的な存在であることを印象付けるのに充分な迫力である。第4話のOPアニメでは主題歌のボーカルも担当。歌声まで素晴らしいのだから、もう向かうところ敵なしだ。
初めての彼女にフラれた大学生・木ノ下和也が、恋人代行サービス(通称・レンタル彼女)を利用して可憐な美少女・水原千鶴と出会うラブコメディ。元カノがほかの男に抱かれる姿を想像して悲しみにくれる和也だったが、なぜか股間は反応してしまうという心身不一致の場面から物語はスタートする。その心と体の問題が解消されるのが、第5話における自慰のシーンだ。和也は元カノとの濡れ場を妄想して行為に励むものの、レンタル彼女のことがどうしても脳裏から離れない。そして千鶴の笑顔で果てたことによって、自分の本当の気持ちを知ることになる。
男性キャラクターの自慰を描くのには大きな困難が伴う。性器そのものを映すことは許されないため、手に付いた体液を見せたり、往年のヒットソングを劇中曲に用いたりと、先人たちが創意工夫を凝らしてきた歴史がある。本作はその命題に対し、乳首を刺激させるという新たな答えを導き出した。本来なら自慰中に持てあますはずの左手によって、自らの右乳首をリズミカルにもてあそぶ様子からはプレイの激しさが伝わってきて、今回の行為が特別なものであることを予感させる。和也が愛用する渦模様のTシャツはめくり上がり、渦が「G」の文字に見えるという演出も小洒落ている。チクニーによって新境地を切り拓いた本作に拍手を送りたい。
女性向け恋愛スマートフォンゲームをTVアニメ化。亡き父から小さな映像会社を受け継いだ主人公“わたし”が社長兼プロデューサーとして番組作りに奔走する中、イボルバーと呼ばれる超進化人類とその陰謀に巻き込まれていく……。
魅力的な男性キャラが揃っているが、中でも注目は番組スポンサーを務める巨大企業のCEO・ゼンだ。主人公がアポなしで面会しようとしたところ、「死にたいんですか!」と会社の受付嬢に止められるシーンはインパクト大。さらに主人公の番組をゴミクズと評する罵詈雑言は、杉田智和の低音ボイスも相まって嗜虐的な妖しさが感じられる。社長ながら少し天然な“わたし”も愛らしく、ハッカー向けの研究会に潜入した際には怪しまれないようにと、ポニーテールとイチゴ柄のシャツをチョイスする謎のセンスにキュンとさせられる。イボルバーの謎はもちろん、彼女のプロデューサー業の行方も要注目。
スマートフォン向けゲームアプリ「崩壊3rd」のスピンオフショートアニメ。戦場から学園に戻った戦乙女(ヴァルキリー)たちが自作の料理に舌鼓を打つ日常を繰り広げていく。ボルシチ、クリームシチュー、牛肉の醤油煮込みと、作中の料理に目を奪われるが、それよりも気になるのは声優陣。メインキャストの釘宮理恵を筆頭に、沢城みゆき、阿澄佳奈、田中理恵、田村ゆかり、高山みなみと豪華なメンバーが集まっており、その掛け合いを聞いているだけで幸せな気分になってしまう。
キュートなキャラクターたちも見逃せない。釘宮理恵が演じるキアナ・カスラナは天真爛漫で負けん気が強く、十八番とも言えるような役柄を演じているのもうれしい。エンドロールにはレシピも掲載されており、本編の料理にチャレンジできる。作り方を詳しく説明しているため、文字がかなり小さくなっているのはご愛敬だ。
巨大財閥の御曹司・神戸大助が新任の警部として活躍する刑事アニメ。大助は無尽蔵の資産を惜しげもなく浪費して事件を解決に導くが、その金の使い方には特徴がある。どうも金で時間を買っているように見えるのだ。堅牢な高級車を操り、遅遅として進まないクラシックカーに追突しながら現われる第1話の派手な登場シーンをはじめ、スポーツカーの接収や信号機のハッキングは、どれも時間を節約するための行動だった。
第2話の取り調べでは、定年間際の刑事が泣き落としで自供を促すのに対し、大助は容疑者に大金を渡して情報を買う。両者はともに真犯人の名前を引き出すことに成功するが、このシーンは長年の経験によって培ったベテラン刑事のテクニックを、大助は金によって時間をかけずに得た場面といえるだろう。さらに大助のバディ・加藤春と懇意の間柄である芸能記者を買収し、古くからの友情関係を金で買ってしまう。そう思えば「富豪刑事」の初回は時限爆弾をめぐるエピソードであったし、作中には時間を気にするキャラクターが多く登場していた(第3話のアイドルファンのおばちゃんを思い出そう)。時間と金の物語がどのような結末を迎えるのか楽しみでならない。
(文・高橋克則)
(C) 2019 秋/KADOKAWA/Demon King Academy
(C) 宮島礼吏・講談社/「彼女、お借りします」製作委員会
(C) 恋とプロデューサー/Paper Pictures/MAPPA
(C) miHoYo Inc.
(C) 筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
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