ショートアニメでもセリフの尺はしっかり取って“ゆったり感”を重視!――「へやキャン△」神保昌登監督&シリーズ構成・伊藤睦美インタビュー

アニメ2020-03-02 19:00

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TVアニメ「ゆるキャン△」から生まれたショートアニメとして、2020年1月よりAT-X、TOKYO MX、BS11ほかにて放送されている「へやキャン△」。人気作品「ゆるキャン△」の雰囲気をそのままに、山梨の名所・名物を味わい尽くすオリジナルストーリーが展開されている。

本作はどのように作り出されているのか、短い時間の中に込められたこだわりとは? 監督の神保昌登さんとシリーズ構成の伊藤睦美さんに、「へやキャン△」制作秘話や意識したポイント、前作となるTVアニメ「ゆるキャン△」第1期のことまでさまざまなお話をうかがった。

 

 

シームレスさを大事に劇伴はフィルムスコアリングを採用

――今回の「へやキャン△」も事前にかなりロケハンされたそうですね。

 

神保 はい。なでしこたちが作中で訪れる場所は全部行きました。冬の物語なので本当は冬に体感したかったのですが、時期的に厳しかったので夏に。暑かったです(笑)。

 

伊藤 私は全部行くことはできなかったのですが、カチカチ山(の舞台と言われている天上山)や富士山世界遺産センターには行きました。

 

神保 カチカチ山はちょうど雨があがったタイミングだったこともあり、すごくきれいで印象に残っています。プライベートでは富士山を近くで見る機会もあまりなかったので、仕事を通してですが美しいところをたくさん見ることができました。

 

――物語は部屋を飛び出して「梨っ子スタンプラリー」の名所を巡る内容になっています。どのような経緯でこの内容に決まったのでしょうか?

 

神保 コミック版の「へやキャン△」をそのまま映像にしていく案もあったんですが、毎週TVシリーズでやっていくには何か一貫した軸が欲しいと思いまして。なでしこ、千明、あおいの3人でドラマを作るなら何をしようかと考え、(名所を)巡ることになりました。

 

伊藤 ベースの構成案を叩き台にしてみんなで話し合い、「スタンプラリー」という軸でまとめていこうとなりました。

 

――方向性が決まり、実際に制作していくうえで特にこだわった部分を教えて下さい。

 

伊藤 ショートアニメなので、何か強いメッセージを出すというよりは、観た人が「面白くてかわいいな~」とホッとする内容にできればいいなと。“ほっこりかわいい”という軸はブレずに、その中でやれるものをやっていこうと思いました。

 

神保 “シームレスさ”は大事にしました。(CMを除いて)3分だと途中で物語が切れてまた流れて……という尺はないですから、3分の楽曲を聴いているような感覚でいけるようにしたくて。そのため、劇伴はフィルムスコアリングで発注させていただきました。その相乗効果によって、シームレスな3分間の映像が作れたと思っています。

 

――音楽の立山秋航さんは「ゆるキャン△」も担当されているので、世界観を熟知していますからね。

 

神保 今回は話数ごとにシチュエーションが変わるので、毎回景色や物語に合わせて楽曲が書き下ろしとなっています。従来のTVシリーズだと30~40曲ぐらい発注して、映像に合わせて(楽曲を)はめる作業をしていたんですけど、フィルムスコアリングによって映像や物語の流れに対応する形にしていただきました。尺がきっちり合っていて、作曲家本人が正解だと考えた音楽と絵が美しく合わさる状態は、見ていて気持ちいいと思います。

 

――「ゆるキャン△」ではキャンプ地ごとに曲を作っていたそうですが、今回は場所に合わせたわけではないのですね。

 

神保 そうですね。場所というより“テンション感”に合わせて作っていただきました。たとえば、第5話では昔話風の音楽になっていて、下手をすると(世界観に)全然なじまない音楽をそのシーンのみで当ててくれています。それをメリハリがつき過ぎないように、なだらかな感じにしてもらったんです。

 

――第5話のカチカチ山新説とも言える空想は、「へやキャン△」らしいなと思いました。これは伊藤さんが考えたのですか?

 

伊藤 あれはみんなで考えました。脚本会議をしていく中で、みんなカチカチ山の話をしっかりと覚えていないということがわかりまして、それぞれ自分が思うカチカチ山を話しているうちに、それを逆手に取って混ぜちゃえばいいんじゃないかとなりました。

 

 

第1話は「ショートアニメとは何なのか?」とすごく悩みました

――「ゆるキャン△」の魅力であるゆったり感を、ショートアニメの3分間で表現するために苦労したところはありますか?

 

神保 尺がない状態だと、セリフを早めにキチキチにしちゃう可能性も高いのですが、今回はひとつひとつのお芝居やセリフにしっかり尺を与えています。必要ないものは割りきってなくしつつ、演出的に必要な間はしっかり与えることを限界ギリギリまで突き詰めてやっています。この作品らしいゆったり感を損なわないようにするには、それが大事かなと。

 

――だからこそ「ゆるキャン△」の雰囲気をしっかり感じられるわけですね。

 

神保 そうですね。(尺がないと)お芝居自体も焦ってしまいますので。

 

――「ゆるキャン△」といえば食べ物の描写も素晴らしく、本作でも引き継がれていると感じますが、そこにもこだわりが?

 

神保 総作画監督である佐々木(睦美)さんの、食に対する熱い思いがほとばしっている感じですね(笑)。食べ物の絵は「ゆるキャン△」からの引き継ぎの手法で、線画に色が付いているだけなのですが、それでおいしく見せられるのは並々ならぬ探究心がないとできないので、がんばってくれています。

 

伊藤 リンの朝食のジャムが美味しそうでしたよね。

 

――たっぷりのせていて本当においしそうでした。絵に関していえば、背景や景色のきれいさも大きな魅力ですね。

 

神保 背景さんはロケハンも毎回参加してくださり、こと細かくオーダーしなくても景色が共有されているんです。そして、それをしっかりアウトプットしてくれるレベルの美術監督さんなので、本当にありがたいです。撮影さんも光の表現や色のフィルタリングをすごくこだわっていて、「ゆるキャン△」からの流れが「へやキャン△」でも生きている感じですね。

 

 

――実写の風景がそのままアニメになったような感じといいますか、デフォルメしすぎていないのが印象的です。

 

神保 そこが難しいところで、デフォルメさせないとキャラクターが背景にのらないので、絶妙な具合にやっていただいています。写真の素材から背景画にする段階で結構情報量のあるものを落とし込むのですが、そういった「ゆるキャン△」独特の背景の描き方を今回もやっていただきました。

 

――伊藤さんは脚本を書かれるうえで、セリフ周りで意識した点などはありますか?

 

伊藤 「へやキャン△」は原作そのままではなく独自の展開をしたお話が多いので、オリジナルで作ったセリフは原作と雰囲気がずれないように気をつけました。でも、特定のセリフを意識したりはせず、(尺が)はみ出ないようにしたぐらいですね(笑)。

 

――では、難産だった話数やシーンなどは?

 

伊藤 やっぱり第1話ですね。第1話は方向性や作品を印象づける回なので、「ショートアニメとは何なのか?」から始まって、みんなで悩んで悩んで。ようやく出した結果が、イノシシなんですけど(笑)。

 

――イノシシしゃべりますからね。

 

伊藤 そのあたりも原作の面白さに助けられた部分がすごくあります。その後の話数は割とフォーマットに合わせていけましたので、とにかく「このショートアニメは何なのか?」を考えて作り上げた第1話が一番大変でした。

 

――そういうことも含めて、本作のスーパーバイザーを務めている京極さんは、どのような役割を担っているのでしょうか?

 

神保 京極さんは脚本会議にも参加してくださり、アフレコやダビング作業にも来てくださって、シリーズでブレてはいけないところや私たちの知らないキャンプ知識などを教えてくださいます。京極さんから「こういう風にやってくれ」とオーダーがあるわけではなく、「一応見ているから」「横にいさせてもらいますね」という感じの、本当にスーパーバイザーな役割ですね。誰も気づかないような細かいところまで拾ってくださるんですよ。

 



テントが飛ぶアイデアはあのジャンプから生まれた!?

――主題歌「The Sunshower」(作詞/作曲:佐々木恵梨 編曲:中村ヒロ)は、歌っている亜咲花さんも楽曲制作陣も前作から関わっている方たちです。神保監督から何かリクエストはあったのでしょうか?

 

神保 1か所だけオーダーさせていただきました。先ほどの「シームレスに見せる」という話に繋がるのですが、3分の中でそのままエンディングに繋がるので、「ジャラン♪」と入りがあってから歌が始まってほしいと。オーダーしたのはそこだけですね。

 

――アニメ本編と主題歌というよりも、主題歌も含めて本編というイメージなのですね。

 

神保 そうですね。そのままの流れでいけるようにという思いがありました。

 

――お2人はTVアニメ「ゆるキャン△」でもオープニングアニメの絵コンテ・演出(神保昌登)、脚本(伊藤睦美/第4話、第5話、第8話、第10話)を担当しています。最初に原作を読んだ時の印象はいかがでしたか?

 

伊藤 たまたま脚本の依頼を受ける前から「ゆるキャン△」のことは知っていたんですよ。キャンプに行ったことはなかったけど興味はあったので、こういう漫画があることは知っていて。すごく絵が綺麗だなと、楽しく読ませていただいていました。

 

神保 最初に読んだ時は、絵や世界観が独特だなと。きっとあfろ先生はこだわりが強いんだろうなと感じましたね。

 

 

――「ゆるキャン△」で京極監督にインタビューした際、「オープニングのテントは演出の神保昌登さんが原作を読み込んで考えたアイデアなんですよ」とおっしゃっていました。つまり、神保監督がテント飛ばした張本人なのですね。

※TVアニメ「ゆるキャン△」のオープニングでは、テントが空を飛ぶシーンも話題となった。

 

神保 原作でも飛んでいますからね(笑)。

 

集えキャンプ難民! TVアニメ「ゆるキャン△」放送終了記念、京極義昭監督が全てを語るインタビュー第2弾!

 

――テントを飛ばすアイデアは、どのような発想から?

 

神保 (オープニングを制作するにあたり)「みんなでジャンプするようなカットは入れないでほしい」というオーダーがあったんです。それ以外は好きにしていいと。

なので、ほかの作品であればジャンプするところで、全員がキャンプ地にたどり着く。ジャンプさせるのではなく、逆に地に足をつけるカットにするのをポイントにしました。そして、次のゾーンで代わりにテントが飛ぶ、という仕掛けになっているんですよ。「大地を踏みしめるとテントが飛ぶ」という謎のアイデアですね(笑)。

 

――まさかそんな事情があったとは。伊藤さんのほうは脚本を担当された話数はどれも素敵でしたが、特に第5話の反響はかなり大きかったです。

 

伊藤 そうですね。でも、これは私の力というよりは、原作の素晴らしさをそのままアニメにできたこと、それから演出の素晴らしさがすごくあったからだと思います。

 

 

――最後に、今後の展開を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。

 

伊藤 最後まで見ていただけると嬉しいです。

 

神保 不意打ちも用意していますので、楽しみにしていただければと思います。


(取材・文/千葉研一)

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