劇場版『Gのレコンギスタ』は、なぜ“わかりやすい”のか? 富野由悠季総監督に聞いてみた!【アニメ業界ウォッチング第63回】
劇場版『Gレコ』の「わかりやすさ」の理由、新作「ベルリ 撃進」の疾走感とドライブ感、DREAMS COME TRUEの密度の詰まったテーマソング「G」の魅力について、富野由悠季総監督に話をうかがった。
セリフではなく、カットの繋ぎ方でシーンの流れをよくしている
── 劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け! コア・ファイター」の話から始めたいのですが、テレビと同じカットの前後を少し入れ替えるだけで、こんなに意味が伝わりやすくなるのかと、驚かされました。
富野 そんなことは、昔からやっています。それが、映画の性能だからです。それができるから、映画は面白いんです。テレビ版では意味が伝わりづらかったという自己反省があるわけだから、それぐらいのことはします。今さら、そんな当たり前のことで驚かれても……。気がついてもらえてうれしくはあるんだけど、そうした映画の原理の部分を、いまのアニメ関係者は知らなさすぎます。今回の『Gのレコンギスタ』(以下、『G-レコ』)では「映画ってこういじれば、こんなに面白くなるんだよ」という部分を見せているのに、とにかく業界の関係者たちは気がつかない。「巨大ロボットが出てくれば、何でもガンダムだろう」程度の認識しかないんですよね。
── 無声映画時代からの、基礎的なテクニックが見落とされている気がします。
富野 だけど、出来のいい映画は、今でもちゃんと“映画”をやっています。みんな、マーベルのようなものを映画だと思っているでしょう?
── 「行け! コア・ファイター」を見た人は、みんな「わかりやすくなった」と誉めています。わかりやすくなった理由を「セリフで補っているから」だと捉えている人が多いようです。
富野 説明不足な部分をセリフで補ってはいるけれど、そのとらえ方は間違っています。状況説明しているのではなく、キャラクターの感情の流れを正確に描けば、お話はわかりやすくなるんです。セリフが増えたように感じるのは、キャラクターのかけ合い、やり取りがハッキリしてきたからであって、むやみに増やしたわけではありません。劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」ではセリフを足した記憶はあまりなくて、むしろテレビより削っています。なぜかというと、流れをスムーズにするためです。
「ベルリ 撃進」のキモになる部分を先に話したほうが、わかりやすいでしょう。終盤で、いよいよ本格的に宇宙へ行こうという流れになります。その流れの中に、ラライヤの「お家だね」というセリフを加えました。そのひと言だけで、第2部から第3部へかけての繋がりが見えやすくなりました。ピシッと繋げるのではなく、ゆったりとした深い繋ぎ方にしたので、第2部を見た人は必ず第3部が見たくなるでしょう。そのラライヤのセリフは、「ベルリ 撃進」では重要な追加事項です。だけど、セリフを増やすだけでなく、むしろ余分なセリフやシーンを削ることで、映画って、全体の繋がりがよくなるんですよ。繋がりがスムーズだと、観客は1時間半の映画をひとつの“かたまり”として認識してくれます。出来の悪い映画って、「あのシーンがよかった」「このシーンが面白かった」とぶつ切りで記憶していて、かたまりでとらえられないでしょう? 誰かに「『G-レコ』ってどういうお話なの?」と聞かれたら、「金星のほうまで旅して地球に帰ってくる話だよ」と、誰でも答えられるはずです。それぐらいシンプルな構成のロードムービーなんです。そこが、戦記物だった昔の「ガンダム」との根本的な違いです。
一直線に進むシンプルな話なので、どうしてキャラクターたちがラストで宇宙を目指さざるを得ないのか、それを「ベルリ 撃進」では大事にしました。その流れがテレビよりわかりやすくなっているとしたら、それはセリフで状況説明しているからではなく、いくつかのシーンで、カットの繋ぎ方がていねいになっているからです。カットの繋ぎをていねいにやらないと、観客が「ちょっと待てよ?」と、立ち止まって考えてしまう。そういう余計な隙間を入れず、第2部から第3部へ向けて上昇していく気持ちをカットの積み方や音楽の使い方でつくっていく。それが、映画が本来的に持っている性能です。
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