アニメライターが振り返る、2019年注目アニメ映画レビュー

アニメ2020-01-03 12:00

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2019年に公開された100タイトルに及ぶ映画の中から、正月休みに必見の作品を紹介。絶賛上映中の最新作から、Blu-ray・DVD化された話題作まで、全5タイトルをラインアップしました。戦時下の呉を描いた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」、湯浅政明監督の新作映画「きみと、波にのれたら」、「うたプリ」のアイドルたちがステージで競演「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」、マーベル・コミックの3DCGアニメ「スパイダーマン:スパイダーバース」、80年代のベストセラー小説が原作の「ぼくらの7日間戦争」の5作品を紹介します。

この世界の(さらにいくつもの)片隅に 2019年12月20日(金)より公開中

2016年に公開された「この世界の片隅に」に、約40分・250カット超のエピソードを加えて上映時間は168分に。アニメ映画として異例の長さを得たことで、主人公・すずが絵に描いた景色や人々が少しずつ消えてしまうという印象はより強まっている。
新作映像では、遊郭で働く白木リンをはじめ、すずが触れ合った周縁の人々の様子が表現された。その中でもご近所の知多さんが日傘を差してゆっくりと歩く場面は、1度見たら忘れることはできない恐ろしいシーンに仕上がっている。前作でも日常の動作はていねいに描かれていたが、それとはまったく異質の動きなのだ。ただの歩くという行為にこれだけの意味を込めることができるのかと身震いしてしまった。



きみと、波にのれたら Blu-ray & DVD 2019年12月18日(水)発売

サーフィンが大好きな大学生・ひな子と海辺の街の消防士・港が織りなすラブストーリー。もっとも衝撃的なのは主演の川栄李奈と片寄涼太が主題歌「Brand New Story」をデュエットするシーンである。じゃれ合って音程が外れていく歌声をバックに、2人がイチャイチャするだけの映像を4分にわたって見せられるという、文字にすると地獄のようなのだが、その陶酔感が素晴らしいのだから仕方がない。
「のれたら」というタイトルからも、本作の主題は上下の移動にあることはわかるだろう。そう考えるとひな子は、下りのエレベーターに乗り遅れたり、物をよく落としたり、とろとろのオムレツをチキンライスにうまくかけられなかったりと、上から下への動作を禁じられたキャラクターのように見える。最愛の恋人を亡くしても目に浮かんだ涙をこぼすことすら許されない彼女が、その呪いを解くまでを描いた一作。



劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム Blu-ray & DVD 2019年12月25日(水)発売

丸ごとライブ仕立てという趣向で話題となった本作。ライブ中はカメラが次々とスイッチングされるため、ライブそのものというよりは、ライブビューイングを見ているような味わいだ。アイドルたちが汽車に乗ってライブ会場へ向かうオープニング映像によって、「このライブはどこか別の場所で本当に行われているのだ」という謎の感動に包まれていく。
ただ見渡す限り女性ファンしかいない劇場の中、男ひとりで鑑賞するのはさすがに居心地が悪い。本編が始まっても自分は招かれざる客ではないのかとソワソワしていたのだが、そんな不安はMCコーナーで払拭される。ユニット・QUARTET NIGHTのまとめ役・寿嶺二(CV:森久保祥太郎)が「音楽がぼくと君を繋ぐ。マイガールも……」というセリフの後、「マイボーイも」と男性客に向けたメッセージを投げかけてくれるのだ。森久保祥太郎の声によって自分の存在が保証される。これ以上心強い後ろ盾がこの世に存在するだろうか。「マイガール」という言葉は大勢で共有しなければならないのに対し、「マイボーイ」は独占できるというおまけ付きだ。ぜひ男ひとりで楽しんでほしい。



スパイダーマン:スパイダーバース Blu-ray & DVD 2019年8月7日(水)発売

さまざまな次元のスパイダーマンたちが共闘するSFアクション。計7名のスパイダーマンそれぞれに自己紹介パートが用意されていると聞けば冗長に思うかもしれないが、むしろそこが面白く、ずっと聞いていたくなってしまうほどの軽妙な語り口なのだ。“たったひとりの”スパイダーマンであるピーター・パーカーの自分語りから始まった物語は、中年に差しかかった冴えないピーター・B・パーカーや、日本のアニメキャラのようなペニー・パーカーなど、ユニークなスパイダーマンたちの登場であらぬ方向へと進んでいき、ラストもまた自己紹介で締めくくられている。
そんな語りに時間を割くいっぽう、スパイダーマンたちはスパイダー・センスという第六感を持つため、余計なことを説明しなくてもわかり合えると割り切っている。2人目のスパイダーマンと出会ったピーター・パーカーの第一声は“I thought I was the only one.(僕ひとりかと思ってた)”と独りごちるだけで、わざわざ確認を求めないところがクールだ。



ぼくらの7日間戦争 2019年12月13日(金)より公開中

高校2年生の主人公・鈴原守が、父親の都合で引っ越しさせられることになった幼なじみ・千代野綾と結託し、クラスメイトたちと石炭工場での家出を決行。だが不法滞在で囚われていたタイ人の子ども・マレットを助けたことで、入国管理局と対立することになって……。
廃工場で繰り広げる入管職員との籠城戦は、遊びと本気が入り交じったような感じで進んでいく。もう使われなくなったトロッコを駆使して撃退していく様子に思わず笑ってしまうが、もう後戻りできなくなっていく怖さもきちんと描かれており、工場の壁を無残に破壊する重機の禍禍しい美しさが目に焼き付く。現代の社会問題を巧みに取り込みながらも、青春ドラマに昇華させているのもポイント。



(文・高橋克則)

(C) 2018こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
(C) 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
(C) UTA☆PRI-MOVIE PROJECT
(C) 2018 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
(C) 2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

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