アニメーター・堀内博之 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第37回)

アニメ2019-11-09 12:00

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連載第37回は、1980年代より業界の最前線で描き続けているスーパーアニメーター、堀内博之さん。1990年代にはテレビ版「天地無用!」のキャラクターデザインや「名探偵コナン」の作画で衆目を集めた堀内さんだが、現在も「弱虫ペダル」や「幼女戦記」の主力アニメーターとしてアクションや重要シーンを任され、ジャパニメーションの屋台骨を支え続けている。「しにがみのバラッド。」、「神曲奏界ポリフォニカ」、「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞」などで見せてくれた筆絵も、堀内さんを語るうえでは欠かせない。「女子高生の無駄づかい」では「すごい」アニメと称して、アバン原画を全話数手がけたのもとてもユニークだ。そんな一見常勝に見える堀内さんにも、実は一生付き合わなければならない、大きなハンディキャップがある。ハンデを抱えながらも厳しいアニメ業界を勝ち抜いてきた、堀内さんの成功の秘訣とは何か。40年近い経験から言える、今のアニメ業界のボトルネックとは何か。2020年を目前に控えた今、挑戦したいこととは何か。ライターcrepuscularの単独インタビューで詳しく語っていただいた。

 

約40年続けてきた「色を使わないで絵が描ける仕事」


─お会いできて大変光栄です。堀内さんは1980年代から現在に至るまでアニメ業界の作画部門で活躍されていますが、アニメ作画の魅力は何だとお考えでしょうか?


堀内博之(以下、堀内) アニメの魅力ややりがいって、実はあんまり考えたことがないんです。というか、自分にはアニメーターしか選択肢がなかったんです。本当はほかのことをやりたかったんですけど、アニメしかできなかった。だから、今もアニメ業界にいさせてもらっている、アニメーターで食べさせてもらっているだけでうれしいんです。


─堀内さんの技術や才能があれば、イラストやマンガでも活躍できるのではないでしょうか?


堀内 自分には色覚多様性があるんです。普通の人よりもちょっと強くて、検査の時に読まされる数字も、一番最初のページしか読んだことがないんですよ。そのくらい強いので、希望していた工業高校とか専門学校からも断られてしまって……。それで、「色を使わないで絵が描ける仕事」を探していた時に、アニメーターという仕事に出会ったんです。アニメーターであれば、影をつける時に色鉛筆は使うんですけど決まった色しか使わないので、「これなら行けるだろう」と。


─創作活動にあたり、影響を受けた作品は?


堀内 アニメーターになるために影響を受けた作品、というのはないんですけど、アニメーションは好きで、小さい頃は「遊星少年パピイ」(1965~66)とか、手塚治虫作品だと「W3(ワンダースリー)」(1965~66)とか「ジャングル大帝」(1965~66)を観ていました。当時、「パピイ」の風船ガムというのがあって、今は見かけないですけど、おまけでガムの袋自体がシールになっていたんですよ。しかも、そのシールを壁に押し当ててこすると、こすった部分が転写されて残るんです。それを自分の家のタンスとかに、同じ絵なんだけど何枚も何枚も転写していたのをすごく覚えています。学生になってからはSLが好きだったので、「銀河鉄道999」(1978~81)とかを観ていましたね。それからだんだんと東映動画ものを観るようになりました。

 

アニメーターに「描けない」はない


─お得意な作画やジャンルはありますか? 堀内さんのフィルモグラフィーを拝見すると、リアル系からかわいい系まであらゆるジャンルの作品に参加されているので、個人的には何でも描ける、万能アニメーターのイメージがあるのですが。


堀内 得意っていうのは、むしろ作っていないんです。「これしか描きたくない!」というのは言いたくもないし、「こういうのがやりたい!」というジャンルもないし。アニメ業界にいさせてもらっている感覚なので、「何が来てもやりますよ!」という気持ちはずっと持っています。やったことがなければ、それはそれでおもしろいじゃないですか。


最近はアクション系のお仕事が多くなってきていますけど、それはアクションを描ける人があまりいないからというか、何でも描けるのが功を奏して仕事が来るようになったんだと思います。特に自分から、「アクションがやりたい!」と言ったことはありません。


─オールマイティでやるためには相当の技術と経験が必要で、大変なご苦労をされてきたと思います。


堀内 自分が業界に入った時、スタジオぽっけ社長の平村文男さんから「何でも描けたほうがいいでしょ」と言われたのもあって、「何でも描けないと原画になれない」と思っていたんですよ。「作風がどうこう変わっても、それに合わせて描けるのがアニメーター」というのが頭にあるので、苦手というのはあるかもしれないけど、「描けない」というのはないと思います。時間がないとかいろんな制約の中で何カットも描かないといけないので、どうしても手癖が出て絵柄が古くなったり、というのはあると思うんですけど、キャラ表さえあれば、アニメーターならちゃんと描けると思うんですよね。


─描く際に意識していることは?


堀内 自分の中では理屈なんですよね。理詰めで動かす、という考え方です。「何でこういう動きになるのか」と言えば、「体重の動きがこうなったから、こう動くだろう」とか。理屈なんですよ。感覚では描けない、というか動かせない。だから、演出側から「理屈抜きでこういう動きを描け」と言われたら、「どうやって動かそう……」と悩むでしょうね。


あとは、「ここ誰がやったのかわからない」というのがいいんですよ。作品の中にうまく溶け込んでいるってことですから。目立たなくていいから、しっかり人に伝わるものを描く。「誰がやったかわからないけど、ここいいね」と言われるのがいいかなと思います。


─「機動戦士ガンダムUC」(2010~14)は、作画も大変すばらしい作品でした。よろしければ、堀内さんが携わったカットをいくつか教えていただけますか?


堀内 第4話のジンネマンとバナージが2人で野営をしているカットです。ジンネマンが焚き火に薪を追加して、バナージがこらえ切れずに毛布を被って泣く、という地味な芝居ですけど。自分は作監で参加しているんですが、原画さんが上手な方だったので、自分が手を加えていいものか、かなり悩みました。


─ジンネマンの「人を想って流す涙は別だ」というせりふも鳥肌が立ちました。


堀内 自分もシナリオがすごく好きで、やっていておもしろかったですね。炎とかも状況描写としてしっかり見せられれば、ストーリーの味つけにつながるんじゃないかなと思って、そういうところは修正させてもらいました。むしろ、キャラクターは原画がすばらしかったので、そんなにいじっていないと思います。表情とか涙の流れ方を、部分的にちょこちょこ直したぐらいです。


─第3話は原画でもクレジットされています。


堀内 バナージが艦長室に呼ばれてダグザと話をした後、オットーが紅茶を出すシーンを描きました。オットーがダグザの会話中にフレームの端で紅茶を淹れているんですけど、茶葉の香りを確認したりとか、ポットの中で茶葉を蒸らしたりとか、細かい動きが地味にあって、心理描写にもつながるんじゃないかなと思って、そこはじっくり描かせてもらいました。


─「戦う司書 The Book of Bantorra」(2009~10)第9話にはガンバンゼルが手を震わせて銃を握り、トリガーを引いた瞬間、反動でフレームアウトするカットがありました。あの芝居づけも見事だと思いました。


堀内 銃を撃つにしても、年寄りが撃つのと若い人が撃つのではリアクションも変わるだろうし、走るにしても、追っかけて走るのか、追っかけられて走るのかでも、走り方って変わると思うんですよ。そういうのはキャラクターがどういう状況なのかを考えながら、動きとして表現できるようにしています。


─2019年は、手塚治虫原作の「どろろ」にも参加されていますね。手塚作品がお好きとのことでしたが、どういった原画を描かれたのですか?


堀内 ほとんどアクションでしたね。2期のオープニングは、カメラが回り込みながら百鬼丸が妖怪をぶった切って、どろろが妖怪をポコッと蹴るカットをやりました。

 

キャラ表はシンプル、3D用デザインも


─キャラクターデザインにあたり、気をつけていることは何でしょうか


堀内 やっているのがほとんど原作付きなんですけど、なるべく原作の雰囲気は壊さないようにしたいなと思っています。それと、キャラ表はなるべく1枚に詰め込みたい、というのもあります。自分が知っているアニメーターさんの話を聞くと、全身だけが描いてあるのと顔が描いてあるのとがバラバラで、それが何枚も重なってくると、だんだんと見るのが辛くなってくるらしいんです。だったら、1枚に集約しちゃおうと。そう思ってやったのが「神曲奏界ポリフォニカ」(2007)で、隙間なく描いていましたね。


─堀内さんの絵柄を、「丸みがあってかわいらしい」と評する方もおられるようです。確かに、「しにがみのバラッド。」(2006)のデザインはそういったタッチでした。


堀内 そういうのが描きたいわけじゃないんですけど、作品に合わせて描いていったらそうなった、というのが正直なところかなと思います。自分は筆でいろいろ描くのが好きなもので、そうなるとパキっとした絵というよりは、もっとほんわかした雰囲気の絵に行ってしまうのかなと思いますね。劇画タッチの作品も、話があれば描きますよ。


─「天地無用! in LOVE」(1996)の阿知花のデザインは、どのような着想で生まれたのでしょうか? 


堀内 阿知花は最初、OVAの「天地無用! 魎皇鬼」(1992~94)で数カット、イメージ的に出ているんですが、そこしか出ていません。劇場用をやる時にねぎしひろし監督から「阿知花は描いてね」と言われたので改めて設定を起こし、監督にも梶島正樹さんにもOKをもらえたので、自分の描いたものが「劇場用のキャラクターデザイン」ということになりました。この時は、「世界観を壊さずに、同じようなところで描ければいいな」ということだけを考えていました。


─近年では、「風の又三郎」(2016)のキャラクターデザインをされています。クマやイノシシといった動物のデザインもありましたが、オリジナルでしょうか? 


堀内 監督の山田裕城さんのイメージ的なラフはありました。そこから起こしているので、完全オリジナルかと言われると、ちょっと違うかなと思います。「風の又三郎」は全部3Dなんですよ。いかに鉛筆タッチのイラスト風な感じの、ちょっと色味がにじんでいたりとか、そういうのを3Dで挑戦したいというのがあって、それのもとになる絵が欲しいということで、モデリング用に描きました。


─色覚多様性をお持ちとのことでしたが、キャラクターデザインの際、色はどうされていますか?


堀内 監督任せになることが多いですけど、聞かれたら自分の考えを言うようにしています。昔ゲーム会社にいた時に「マロニアのマロン」という、シリーズ化しようとして途中でなくなっちゃった企画があったんですけど、そのキャラクターのデザインをした時、色指定の人が何パターンか作ってくれたんですよ。肌色にしても、「ちょっと冷たい感じ」とか「暖かみのある感じ」とか、微妙な色具合があるじゃないですか。でも、「堀内さん、どう思う?」と言われても、「両方一緒にしか見えない」と答えるしかなかったんです。なのでその時は、「やさしく見えるのはどっちですか?」とか、「キャラクターとして冷たい感じが残っているのはどっちですか?」とかいった感じで答えて、別の人に確認してもらうようにしていました。

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