情景作家・山田卓司、昭和~平成~令和をつらぬく“時代を見つめる視点”を語る【ホビー業界インサイド第48回】

ホビー2019-06-29 12:00

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1970年代、ミリタリープラモが少年たちの間で大人気だった時代、模型専門誌「ホビージャパン」で作例を発表しはじめた新進気鋭のモデラーが山田卓司さんだ。ほぼ同時期、山田さんはタミヤの主催する人形改造コンテストの上位入賞者となり、90年代にはテレビ東京系列で放送された「TVチャンピオン」の全国プロモデラー選手権のチャンピオンとして、広く名前を知られるようになった。
先月、静岡県で行われた第58回静岡ホビーショーの会場で、山田さんに取材することができた。プラモデルや模型にとどまらず、昭和~平成~令和をつらぬく“時代を見つめる視点”について、縦横無尽に語っていただいた。

金賞をとれる作品には“品格”がある


── 山田さんというと、やはりタミヤ主催の人形改造コンテストに入賞していた方というイメージがあります。

山田 確かに、人形改造コンテストは僕の原点です。だけど、なかなか金賞がとれなくて、ずっと悩んでいました。第1回から応募してるのに、作品集にすら載せてもらえないんですから。写真審査を通ったら、次は現物審査なんです。現物審査まで進めれば、9割ぐらいの応募作は作品集に載せてもらえたようなんだけど、僕の作品は載っていない。第4回で、ようやく佳作に入れました。銅賞をとれるようになってからが、また長いんです。「どうすれば金賞がとれるのかな?」と、何年も悩みました。金賞をとれる作品には、技術をこえた何かがある。それは何だろう?と、いつも自問自答していました。技術的には銀賞がトップ。だけど金賞作品には、品格のようなものがあるんです。銀賞よりも金賞のほうが技術的には粗いんだけど、やっぱり金賞は金賞なんです。では、なぜ金賞なのだろう? ――その問いかけが、僕の審美眼の原点ですね。技術とかディテールを超えた“よさ”がある。おそらく絵画でもおなじだと思うのですが、細密画が100パーセント正しいわけではありませんよね。名画といわれる絵は、それほど細かいタッチで描かれているわけではない。タッチの細かさが、絵の上下を決めるわけじゃないんだ……ということを、僕は人形改造コンテストから学びました。
模型も、細密にディテールを作るにこしたことはないんですけど、それでは単なるミニチュアです。特にジオラマや人形は、正確さではなく、表現の部分で勝負できるのではないか?という気がしています。


── だけど、最終的には人形改造コンテストで金賞をとれましたよね?

山田 そう、銅賞を3回ぐらいとって、ようやく金賞をとれたのかな。黒澤明の「影武者」の年にね。黒澤監督とフランシス・フォード・コッポラ監督と自分が並んでいる“DIRECTORS CHAIR”という作品でした。みんな気がついてないかもしれないけど、僕だけ椅子に座らず、床に座っているんですよ。

── もちろん、気がついていました。黒澤とコッポラに謙遜している、そのセンスも含めてカッコいい作品でした。

山田 いま思うと、僕は自分自身をモチーフにした模型が好きではないんです。ゴジラでもガンダムでも、その対象が好きだからよい模型がつくれるんじゃないかと、当時は思っていました。愛情を注げるからよい作品ができるのであって、自分を相手に、そこまでの愛情は注げない。だから、情景作品集の表紙で自画像を作ってほしいと依頼されたときは、悩みましたよ。試しに娘を作って、そのついでに自分を作って親子でまとめようと考えました。娘は純粋に好きだから、模型として作れるわけです。そうしたら、今度は嫁の機嫌が悪くなってしまって……。娘に聞いてみたら「ママ、自分が作ってもらえないからじゃないの?」って。それで、家族を作ることになってしまった。そんな風だから、積極的に自分の自慢話をするのは、いまだに僕は苦手ですね(笑)。

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