作曲家・立山秋航 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第30回)

アニメ2019-02-10 10:00

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2017年に空前の大ヒットを飛ばした「けものフレンズ」、2018年にアウトドアブームを引き起こした「ゆるキャン△」。アニメファンなら説明不要の名作だろう。「アニメ・ゲームの“中の人”」第30回は、これらを劇伴という側面から盛り上げた、作曲家の立山秋航さんにご登場いただいた。ポップスバンド「THE LINDA!」のドラマーだった立山さんは、独学で作曲を学び、「ヒーローバンク」でアニメ劇伴業界に迎え入れられた。自分の曲ではなく「作品ならでは音楽」を書く劇伴作家として、「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」、「くまみこ」、「アイドル事変」、「ちちぶでぶちち」、「立花館To Lieあんぐる」、「ISLAND」、「学園BASARA」などにおいても、スコア完成度の高さを評価されている。そんな立山さんのキャリアや創作の秘訣を、たっぷりとお届けしよう。加えて今回のインタビューでは、2019年1月放送開始の「けものフレンズ2」と「ぱすてるメモリーズ」の音楽についても、貴重なコメントをいただいた(編注:京極義昭監督作品「ゆるキャン△」については、特別インタビューもお読みいただきたい)。

 

劇伴作家が追うべき音楽は過去にある


─「アキバ総研」インタビューに応じていただき、ありがとうございます。2019年も「けものフレンズ2」や「ぱすてるメモリーズ」などで大変お忙しいご様子ですが、立山さんにとってアニメ劇伴作曲の魅力とは何でしょうか?


立山秋航(以下、立山) 自分の書いた曲が、作品の世界を表現するひとつのパーツとして役立っているな、活躍しているなと思えた時、一番やりがいを感じますね。いつも、40曲とか50曲とか本当に書けるのかな……? と思いながら進めていますけど、「やらされている感」というのを感じたことは一度もありません。


─影響を受けた作品は?


立山 いろいろあるんですが、映画音楽でいえば、「スター・ウォーズ」、「インディ・ジョーンズ」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか、小さいころに観た作品の影響が大きいですね。そのころは当然、劇伴がどうこうとか考えていないですけど、曲がとにかくカッコイイな!と思いながら聴いていました。


─そのころから音楽の勉強をしていたのでしょうか?


立山 「スター・ウォーズ」を観ていたのは小学校や中学校のころなのでバンドはしていないですし、プロになろうとも思っていませんでしたが、小学校に上がる前からピアノをやっていました。


─目標とする方は?


立山 劇伴作家さんで好きな人はいっぱいいますけど、こういうふうになりたい!という憧れや目標とはちょっと違うかもしれません。ほかの作家さんのワークフローに興味があるので皆さんどうやって曲を書いて、どういう仕事をしているのか、1日その人になって、知りたいくらいです(笑)。


─拙連載で作曲家の橋本由香利さんは、「ほかの事務所の作曲家の方とは、なかなか知り合う機会がない」とおっしゃっていました(編注:https://akiba-souken.com/article/31452/?page=2)。


立山 複数のチームでやっていたりする方は、チーム内で会うかもしれないですけど、僕はひとりでやっているので、作曲家同士でコラボしたり、一緒に仕事したり、というのはほとんどないですね。クレジットで分かれている場合も、集まって皆で曲を考えようぜ!とやっているわけではなくて、分業していることが多いと思います。


─最近、気になっている音楽はありますか?


立山 テレビでバラエティ番組を観るのが好きなので、バラエティで使われている曲はすごく聴いちゃいますね。食事しながらよく観ています。でも劇伴をやるようになってから、流行を追うことはあまりしなくなりました。歌もの中心で仕事をしていた時は、流行のアイドルサウンドとか、ある程度追っていましたけど、劇伴作家になってからは、追わなきゃいけない音楽は過去にある気がしているんです。もちろん、感覚が古くなっちゃダメだと思いますが。極論ですけど、今の音楽に精通している人よりも、クラシック、映画音楽、イージーリスニングといった古くからある音楽にめちゃくちゃ詳しいという人のほうが、劇伴では強いと思っています。

 

 

万能楽器ピアノとの付き合い方


─曲はメロディから浮かんでくるのでしょうか? それともコード主導で作曲を?


立山 僕はまずメロディを考えて、それにコードを乗せて……、というふうな作り方はしないんです。シーンやメニューに合わせて全体のふわっとしたイメージを作っていく感じで、「最初は、ぽつりぽつりとメロディが始まって、その後はメロディがいったん抜けてリズムが入って、またメロディが戻ってきて……」というような演出的な部分といいますか、構成やその曲がしたいことに結構時間をかけています。


─立山さんの好きな音作りを教えていただけますか? 小学校からピアノを習っていたとのことですが、やはりピアノ楽曲はお得意なのでしょうか? 「ISLAND」(2018)のサウンドトラックには「記憶のセツナ」、「くりかえすさだめ」、「くりかえすなみだ」といった、情感のこもったすばらしい楽曲が収録されています。


立山 得意か不得意か、で言ったら得意なほうだと思うんですけど、実は、劇伴の中でピアノを積極的に入れるタイプではなんです。それには考えがありまして、ピアノって鍵盤を押さえた瞬間にその響きが出るし、コードからメロディまで万能なんですよ。激しい曲からアンニュイな曲まで、ピアノだけで作れちゃうんです。なので、監督からピアノが欲しい、と言われたらもちろん使いますけど、お題のないフリーな中で作る場合には、あえてピアノを封じて、安易にそこにいかないようにしていることが多いです。


─所属事務所であるハイキックエンタテインメントのHPには、「『生演奏の躍動感』を大切に、生命力のあるサウンド作りを信念としている」とあります。


立山 生楽器とかバンドとか、ふつうに人間が演奏できる音楽のほうが、自分自身がそれを聴いて演奏してきたというのもあって、どちらかといえば得意だと思います。


─「けものフレンズ」(2017)第1話の冒頭シーンで流れた「風を感じて」は、透明感あふれるギターの伴奏とフルートの旋律が、作品の世界観を見事に表現していました。


立山 この曲は、好評をいただくことが多くてうれしいですね。さっきの話じゃないですけど、「けものフレンズ」はピアノをそんなに使っていなくて、自然の中のお話なのでどちらかというと、アコースティックギターやフルートのほうが合うかな、と思って使っています。

 

限定手法のメリットとデメリット


─作品や作品の舞台を意識した音作りについては、「ゆるキャン△」(2018)サウンドトラックのライナーノーツでも触れられていましたね。意識的に「実際にキャンプ場でも演奏出来る楽器」で作曲したとか。


立山 そこはよくも悪くも考えちゃいますね。本当に「よくも悪くも」なんです。自然の中のお話だからエレキギターやシンセサイザーはなしで、と限定するのは曲を書きやすくもなるんですけど、同時にある可能性を捨てている、ということでもあるので、どっちがいいか判断するのは難しいんです。


僕はどちらかというと限定していくタイプでして、エレキギターをやめよう、シンセサイザーをやめよう、機械っぽいリズムはやめよう、ってどんどん捨てていって、曲を書いていくタイプなんです。でもそうじゃない発想の作家さんもいらっしゃって、ジャンルも楽器も限定しないで曲がよければいい、という考えで書いている方もいらっしゃると思います。それはそれで迷いなく振り切れているんだったら、全然アリだと思います。


─「ゆるキャン△のテーマ」は、手元に何も資料がない状態で作られた曲とのことですが、完全にフリーハンドで作曲を?


立山 「ゆるキャン△のテーマ」を書いた時点では、何もなかったですね。僕があfろ先生の原作マンガを読んで、こういう感じだったらフォークっぽいのが合うかな、と思って作ったのが「ゆるキャン△のテーマ」です。京極義昭監督からも「いいね!」と言っていただけたので、本当によかったです。


─楽曲制作では原作や絵コンテだけでなく、脚本も読み込まれるそうですね。


立山 テレビアニメではコンテが途中までしかないことが結構多くて、その場合はシナリオを読んでいます。どの作品でも2話ぐらいまでのコンテはあるんですけど、全話そろっていることはないことが多いかな。本当はコンテがいいんですけどね(苦笑)。


─「けものフレンズ」、「ISLAND」、「学園BASARA」(2018)などは原作がゲームですが、ゲームで使用された音楽も参考資料になるのでしょうか?


立山 「ゲームの音楽を意識しないでほしい」と言われることも結構ありまして、「ISLAND」原作の安瀬聖さんの音楽も、1、2回聴いたくらいです。


─絵コンテや脚本の分析では、音楽以外の音とのバランスも考慮しますか?


立山 劇伴の仕事を始めた当初はあまり考えずに曲を書いていましたけど、最近はこのくらいの間でセリフが入るだろうなとか、ここでこういう効果音が入るだろうなとか、ある程度は考えています。でもそこに関して、まだまだ僕は経験豊富じゃないので、僕が書いた曲とセリフや効果音との相性というのは、今でも勉強中で、トライアンドエラーしています。


─ハリウッドでは賛否ある、監督が自分のイメージに近い既成曲を提示することについて、どうお考えでしょうか?


立山 僕の場合は「こういう曲」とか、「こういう劇伴みたいな雰囲気にしたい」とか、言われたことはほとんどないですね。作曲家としては、事前にそうした曲を聴けるのは大きな礎になると思います。ただそれがあるがゆえに自由にできないとか、それに近づけようとして自分のよさが出せないとか、苦戦しちゃうこともあると思います。


─「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」(2015)には、「ジョーズ」、「ピンクパンサー」、「フライデーナイト・ファンタジー」のパロディ曲がありました。


立山 この時は半々くらいで、鈴木洋平監督が狙って指示してくることもあれば、メニューに「不穏な感じ」、「危険」とあったのを見て、こちらから「『ピンクパンサー』みたいな感じでしょうか?」、「『ジョーズ』のパロディにしたら、おもしろくないですか?」と提案することもありました。

 

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