「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」では、メカから吹き出る“煙”までもが演技している!【懐かしアニメ回顧録第42回】
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の最終章が公開中だ。物語はテレビ版第1話の直前で幕を閉じるが、同じ一年戦争を舞台にしたほかの作品に目を向けてみよう。OVA「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」は一年戦争後半、地球での戦いをメインに描いている。
地球連邦軍の第08MS小隊の隊長であるシロー・アマダは地球への赴任途上、ジオン公国軍の女性パイロット、アイナ・サハリンと知り合う。一度は敵味方の両陣営に別れた2人が、地上で再び出会うエピソードが、第7話「再会」である。
アイナはジオン軍の大型モビルアーマー“アプサラス”のテストパイロットだ。アプサラスは単機でも連邦軍本部を破壊しかねないほど危険な兵器なので、シローたち08小隊はアプサラスを射爆場で待ち伏せする作戦を立てる。
だが、部下を助けるためアプサラスの巨体に飛び乗ったシローの陸戦型ガンダムは、アプサラスとともにヒマラヤ山脈へと消える。第7話は、ここから始まる。
アイナの身に何が起きたのか? それを隠さねばならない
峡谷にガンダムのボディを押しつけて飛行していたアプサラスは、ガンダムと組み合ったまま空中へ上昇する。このカットは第6話ラストからの転用で、アプサラス下部の半球形のエンジン部から漏れた灰色の煙が、糸のように螺旋を描く様が美しい。
アプサラスのパイロットがアイナだと確信したシローは、ガンダムのコクピットから出てアプサラスの外壁をよじ登るが、戦闘の最中にアイナを殺してしまったのではないかとの疑念にとらわれる。その後のカットは、以下のような内容だ。
●炎と煙に包まれたアプサラスのコクピット。
●意を決して、アプサラスの外壁を歩き出すシロー。
●アプサラスの首の辺りから、新たに煙が噴き出す。
●歩きつづけるシロー。
●アプサラスのコクピット内に消火剤が散布される。
●アプサラスのコクピット内、煙ごしにモニターが点灯する。
●アプサラス頭部のカメラアイが発光して、シローの方を向く。
●ハッと立ち止まるシロー。
●煙の中、アイナの手が銃を取り出す(顔は映っていない)。
次のカットでは、シローがアプサラスの頭部に向かって「アイナ! アイナ・サハリンなんだろ!」と呼びかける。このカットでは、シローとアプサラス頭部とは、流れる煙で分断されている。しかし、アプサラスのコクピットからアイナが出てくる(同時にコクピット内の煙が外部に排出される)と、シローとアイナは顔を合わせて肉声で語り合い、煙はまったく描かれなくなる。
このシーンでは「アイナの生死」「(シローを敵と見なして撃つかもしれない)アイナの意志」を覆い隠して緊張感を維持するため、煙が随所に使われているのだ。
メカとキャラ、両方を媒介するファクターが必要だ
以降、シローとアイナは厳しい雪山で生き延びるため、互いに力を合わせる。そのプロセスでも、煙が多く使われている。たとえば……。
●再起動したアプサラスのエンジン部から、丸い煙が画面全体に広がる。冒頭では螺旋、あるいは帯状だったエンジン部からの煙が、2人が再会してからは丸くなっている。
●落下するアプサラスを受け止めるガンダムのスラスターから噴射された炎が煙となって、アプサラスを包み込むクッションのように広がる。崖に接触したガンダムの足元から上がる土煙も、同じようにアプサラスを包むようなシルエットで描かれている。
●シローと露天風呂に入っていたアイナが、辛かった過去を思い出すと周囲に煙が流れこむ。「私、ギニアス兄さんの人形なんかじゃない!」と叫んで立ち上がると、彼女の体の前後を横方向に激しく煙が流れる。
さて、身も心も結ばれたシローとアイナだが、空中では2人を捜索するジオン軍と連邦軍の戦闘機が撃ち合っている。「これが、俺たちのやっている戦争……」と理不尽を感じたシローの足元に流れ弾が次々と着弾し、まるで壁のように煙が上がる。
そして、アイナは迎えに来た友軍機の前でヘルメットをかぶり、シローと別れる。彼女の背後の機体から大量の煙が生じて、シローを見つめるアイナの姿を、足元からすっぽりと覆い隠す。別れの辛さに耐え切れず目をとじるシローも、その煙で覆われる。
実は、アイナとシローが再び敵味方に別れる運命の過酷さを描くだけなら、ヘルメットによってアイナの表情が隠された時点で完結している。あるいは後ろ姿を見せて、別れを強調する手もあるだろう。だが、第7話「再会」はメカニック同士の激しいぶつかり合いに始まり、キャラクター同士が素肌をさらして理解しあうまでを描くエピソードだ。敵味方のメカニックとキャラクター、計4つの被写体を付かず離れず、常に結びつけておく視覚的ファクターが必要だ。機械から吹き上がる煙、雪山から生じる煙なら、戦闘シーンでも入浴シーンでも使えるため、もっとも効率がいいように思えないだろうか?
そして、メカニックやキャラクターと同じ原理と手段で、「煙」を含めた物理現象を自在に“演技”させられること。それも、アニメ表現の優位性のひとつではないだろうか。
(文/廣田恵介)
(C) 創通・サンライズ
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