【中国オタクのアニメ事情】中国では超大作揃いとされた1月新作アニメ、しかし配信中止のトラブルも

アニメ2018-02-12 13:00

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の1月の新作アニメの動向や、配信形式の変化などを紹介させていただきます。


中国では「超大作」が集まっているとされた1月新作アニメ。盛り上がりと同時にトラブルも


1月の新作アニメは中国のオタク界隈でも前評判の高い話題作や予想外の良作と受け止められる作品が多く、寒假(春節を含む長期休暇)に合わせてかなり盛り上がっているようです。
しかしそのいっぽうで、突然の配信中止といった事件が起こるなど、何も気にせず気楽に楽しめる状況というわけではないという話も聞こえてきます。

中国のオタク界隈における1月新作アニメの前評判は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「ダーリン・イン・ザ・フランキス」の2作品が特に高く、放映開始前の話題性に関してはこの2作品の一騎打ち状態となっていました。
この2作品はそれぞれ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」が京アニブランドの高クオリティ作画などからアニメを見る人間なら押さえるべしということで「聖経」(聖書)「人類聖経」、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」がスタッフのインタビューネタから来ているという「国家隊」(ナショナルチーム)というあだ名でも呼ばれ、放映開始後も中国のオタク界隈ではこのあだ名が活発に飛び交っています。

しかし「ダーリン・イン・ザ・フランキス」、それから「スロウスタート」の2作品は2月に入ってから突然中国本土での配信が中止となってしまいました。
中国本土で「ダーリン・イン・ザ・フランキス」を配信しているiqiyiからは「不可抗力的な事情による配信中止」といった発表はあったそうですが、この記事を書いている時点では配信再開に関する動きは出ていないそうです。(ちなみに香港澳門台湾に関してはbilibiliが配信とのことです)

またこの突然の配信中止が政府機関への「通報」によるものだという噂も流れ、配信中止がこの2作品だけにとどまらず他の作品へ波及するのではないかという話も出るなど、中国のオタク界隈は一時恐慌状態になってしまったとのことです。

この2作品以外にも1月の新作には中国のオタク界隈における期待作が多く、さまざまな作品が話題になっていますが、以下にその中でも比較的目立っている作品をあげさせていただきます。

まず「Fate/EXTRA Last Encore」は、中国でも大人気のFateシリーズの作品であることや、現在絶好調の「Fate/Grand Order」の中国国内版の人気の後押しもあり、ディープな層だけでなくライトな層からも注目されているそうです。

次に続編系の作品としては、「斉木楠雄のΨ難(第2期)」が広い範囲でウケるギャグ系の作品として好調ですし、「オーバーロードII」は日本のいわゆる「俺TUEEEE」的な意味になる中国のスラング「龍傲天」から来ている「骨傲天」というあだ名とともに中国ではゲーム系やファンタジー系の作品のファンも含むさまざまな層のファンを獲得しているという話です。

それから他の続編系とは少々異なりますが、「カードキャプターさくら クリアカード編」は一般層も含めての話題作となっています。
「カードキャプターさくら」は、以前に中国のテレビでも放映されていたことから非常に広い範囲の視聴者がいるとされていますし、小さい頃の思い出の作品的な思い入れのある人も多いそうで、この「クリアカード編」を昔の記憶を思い出しながら楽しんでいる人も珍しくはないのだとか。

ほかにもラノベ原作枠では、「りゅうおうのおしごと!」が、中国では一般的ではない将棋というテーマの作品でありながら好調のようです。
これに関しては原作が中国の日本ラノベ読み層からの評価が高く熱心なファンがいたことや、「3月のライオン」という将棋ジャンルの先行作品があったことなどもプラスに働いているようで、アニメの話数を重ねるごとに順調にファンを獲得している模様です。


有料配信の形式を巡る争いも?


以上のように、1月の新作アニメには中国でも話題作となっている作品が多く、春節休みと合わさってかなり盛り上がっているようですが、その陰で日本のアニメを配信する中国の各動画サイトでは配信形式、特に有料配信方面に関する動きも出ています。

中国でも動画サイトが広告収入だけでやっていくことができた時代は遥か遠くとなり、現在はさまざまな収益化の手段が模索されています。
動画コンテンツに関しては有料会員向けのコンテンツとして扱う動きが加速しており、定期的に新作が供給される日本のアニメも有料会員向けの先行あるいは限定配信という形式での配信が目立つようになっています。

iqiyiは、話題作も含まれる独占配信作品を有料会員向けに先行配信していますし、これまで有料限定配信の導入を見送ってきたとされるbilibiliも、話題作の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を有料会員向けに先行配信しています。

また、非独占配信の作品にも有料配信関係の動きが出ているようで、今期はテレ東系のアニメに加えて「カードキャプターさくら クリアカード編」などが配信されているどの動画サイトでも、有料配信(有料会員に1週間の先行配信?)になっているとのことです。

これ以外にも、配信の形式に関する混乱が起きているという話もあります。
これまで中国ではひとつの作品が複数のサイトで配信される際に、各動画サイトごとに配信環境がかなり違うといった状況が続いていました。
しかし今年に入ってから、主にテレ東系とされる複数の作品が
「有料会員向けに1週間の先行配信」
という形式のみで配信をしなければならないという話が出ているそうで、各動画サイトの中でiqiyiは以前からその形式で配信していたことから影響は出なかったものの、youkuやbilibiliは対応を迫られることとなりました。

なかでも、bilibiliへの影響は大きく、公式からは
「技術的な原因によりライセンス契約における一部の責任要求を履行できなくなっていることから、技術的な問題を解決する期間は関係する37作品を配信中止処理にする」
というアナウンスが行われ、「斉木楠雄のψ難(第2期)」や「弱虫ペダル GLORY LINE」などの1月新作を含む37作品が配信中止となりました。
このコラムを書いている2月上旬時点でも配信中止は解除されていない模様です。

このbilibiliの配信中止に関しては、契約の具体的な内容や契約のルートがハッキリしないので何とも言えませんが、bilibiliはテレ東系の作品に関して2016年にも広告の表示に関するゴタゴタを起こしていますし、ライセンスの取得と配信時の広告表示に関してはヤヤコシイ状況が続いていたのかもしれません。

中国における1月の新作アニメ関連の動向は日本のアニメの人気や話題性を改めて感じさせるものでしたが、それと同時にアニメをはじめとする、現在の中国で「二次元」とくくられるジャンルが「注目され過ぎる」ことによるリスクも改めて実感させられることとなりました。

このあたりのリスクについては、過去に日本のコンテンツもたびたび巻き込まれている中国社会における規制の問題に加えて、上から下までのそういった制度をも活用した争い、さらにはアニメの版権獲得とその配信などを行う現地動画サイトの競争が、次のステージに進もうとしていることによる影響なども考えられるという話です。


(文/百元籠羊)


(C) 暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

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