【犬も歩けばアニメに当たる。第33回】「時間の支配者」家族と時間がキーワードのスタイリッシュアクションアニメ
今回ご紹介するのは、7月から放送中の「時間の支配者」。キャッチコピーは〝時間操作系スタイリッシュアクション〟。時間を加速したり減速したりして戦う時間の支配者「クロノスルーラー」が、人の時間を食らう悪魔「計」と戦うアクションアニメです。
原作は、台湾出身の漫画家、彭傑(ポンジェー)のコミック。日本語版は、Webマンガ誌「少年ジャンプ+」で連載されています。一見、よくある異能力バトルものに見えますが、よく見ていくとちょっと独特でおもしろいんですよね、この作品。
Webマンガ誌「少年ジャンプ+」を愛読する筆者が、見どころをご紹介します。
ナンパ男と堅物の凸凹主役コンビは父と息子!?
人の時間を食らう悪魔「計」と戦う主役コンビは、水色の髪の少年、ヴィクト・プーチンと、黒髪メガネの青年、霧・プーチン。
ヴィクトはナンパで明るく、いつも軽口をたたいてばかり。相棒の霧は堅物で生真面目、いつもヴィクトの言動にイライラしている。
1話で初対面の相手に「兄弟」と名乗っていたふたりだが、実は「父子」、しかも年下に見えるヴィクトのほうが父親──というのが、ポイントだ。
15歳程度に見えるヴィクトの実年齢は、39歳。12年前、27歳のときに「計」という化け物に噛まれて自分の時間を食われ、以来毎日1日ずつ若返っている。ゆえに12年後の現在の容姿は、15歳前後というわけだ。見た目の15歳以降の記憶を失っているため、妻や息子の霧と一緒に過ごした頃の記憶はない。
コミックやアニメで、「若すぎて兄や姉のように見える、年齢不詳の父親、母親」や、「年若い少年少女に見えて、実年齢はジジババ」というキャラクターは、珍しくない。また、タイムトリップして過去に行った子供が、若い頃の父や母と出会うという話もよく見る。
しかし、実の父親が、このように現在進行形で事故によって自分より若くなり、しかもコンビを組んでともに戦うという設定は、ちょっと珍しい。
霧が感じる、コミカルに見えて根深い苛立ちは、性格の合わないヴィクトが「自分の父親だから」こそというところがある。同時に、幼い自分と過ごした父親としての記憶を失っていることへのはがゆさ、やるせなさもある。
ヴィクトのほうは、自分が失った記憶に関して、霧ほど深刻にとらえていないように見える。けれどその実、家族との記憶を取り戻したい気持ちは強い。
いつもヴィクトが手にしている日記帳は、彼自身の中にはない思い出の記録で、彼にとっては命より大切なものだ。自分の記憶を食らった計を倒して、いつか必ず取り戻すと誓った記憶、今は覚えていない過去が「確かにある」ことの証だからだ。
「時間」に関する仕掛けがいっぱい
この作品のキーワードは「時間」だ。いろんなところに時間に関わる仕掛けが潜んでいる。
「計」は、人間の時間を食らって成長し、進化する怪物だ。「過去に戻りたい」と願う人間の元に現れ、願いをかなえるふりをして時間を食らう。時間を食われた人間は、新しい方から記憶を失い、肉体が若返り、まもなく消滅してしまう。
奇跡のように見えて、決して時が真の意味で逆行することはない。起こった事実は変えられない。
クロノスのリーダーである美女アイスレーダーは、「時間の神クロノス唯一の正統なる末裔」を名乗り、自分を「神」だという。
神と言われるとうさんくさいが、軽く2000年前から生きているようでしかも容姿が若々しいのだから、普通の人間でないのは確かだ。人間離れした圧倒的な力を振るう、不老不死の人間。そう、彼らはいわば、中国の伝奇小説に登場する「神仙」なのだ。
神仙だからこそ、人間と地続きの世界に暮らしているし、一見人間と変わらぬ肉体も持ち合わせている。登場人物たちの服装などから洋風のイメージを受けるが、そう考えると、なるほどこの世界は大陸風だ。
2話から登場した謎の多い少女ミーナも、なんと500年以上生きているらしい。その彼女が、ヴィクトに本気で惚れている。夫婦になっても、ヴィクトが普通の人間なら、あっという間に先に死んでしまうのではないか? いや、その流れる時間の速さの差があるからこそ、燃える恋なのか? いろいろ勘ぐりたくなるのだ。
ヴィクトに過去を、自分や家族との記憶を取り戻してほしいと願う霧。いっぽう、「過去にこだわるより、これから一緒に未来を作ろう」というミーナ。どちらも一理ある。人生において大事なのは過去か、未来か? なんてことも考えさせられる。
タイムスリップものは燃える!「クジュール」でヴィクトを待つ出来事
8話から突入した、ヴィクトの故郷「クジュール」を舞台にしたエピソードは、ヴィクトの内面にせまる重要なものだ。
調査のために尋ねたクジュールは、なぜか街全体が34年前にタイムスリップしていて、ヴィクトの亡くなった父母と、5歳の幼いヴィクトが暮らしていた。
計が何らかの形で関係し、時間が逆行していると思われることから、霧は罠だと考え、警戒する。だが、生きている両親を目の当たりにして、言葉を交わしたヴィクトは、感情を揺り動かされ、霧と対立してしまう……。
霧の父親であるヴィクトは、ここでは息子として親への情に揺さぶられる。その父親に「冷静になれ」という息子。幾重にも逆転している構図が興味深い。
果たして、ヴィクトが対面した亡き両親の正体は? ヴィクトの心のすきまにくいこむクジュールの真実は、クライマックスで明かされるだろう。
テーマは「家族」? 不思議なチーム
この物語は、ヴィクトが失った時間を取り戻し、息子の霧とともに正しい家族の姿に戻るまでの話のように見える。もっとも、ヴィクトの時間を食った計を倒すことができたとしても、それはほぼ不可能だと示唆されているので、この先どうなるのかはわからない。
また、「ヴィクトの妻」を名乗るミーナには、謎が多い。ヴィクトを「ダーリン」と呼んで離れないが、霧への態度を見ていると、本当に母親なのかどうか、疑念が残る。
ヴィクトと霧、ミーナの3人は、「親子」というにはあまりにも規格外で、現実味がない。
そして、3話から登場した、〝大悪党〟ブレイズ。炎を操る猪突猛進おバカキャラというわかりやすい奴だが、彼は身の上に同情した霧に協力を申し出て、以後霧の「兄貴」となることを約束する(霧は歓迎していないが)。
この4人がチームを組んで旅をしていくと、そこには不思議な擬似家族が誕生する。父親と母親と兄貴と弟。けれど、みんながそれぞれ納得しているわけではないし、夫婦、兄弟、親子、どれを見てもとってつけたような違和感がある。
だからこそ、この先彼らがどんな関係性になっていくのかが気にかかる。わかりやすく感動できる家族ものでないからこそ、どこへ転がっていくのか予測ができない。そこがおもしろい。
華やかなキャラによる王道のアクションアニメ
原作は、電子コミック2巻までが刊行されている。しかし「ジャンプ+」での連載は2014年5月からはじまっており、2017年8月現在、60話を越えて連載中だ。コミックに換算すれば、約6冊分がすでに掲載されている。
ギャンブラーなヴィクトが技の媒介に使う武器はトランプで、堅物でクールな霧は黒髪メガネで刀を使い、水の属性。ヴィクトLOVEの恋する美少女ミーナは、ピンク髪のツインテールで、熱血単純なブレイズは炎を操る。
非常にわかりやすいテンプレな設定は、少々古さも感じさせるが、それだけこなれていて違和感がない。
期待を裏切らない配役、CGもまじえ、色と動きで華麗に見せるアクションシーン、クールなジャズのBGM。アニメ化を待っていた原作ファンも、アニメ化の楽しさをたっぷり味わえる仕上がりになっている。
アニメのキャッチフレーズは「秘密こそ、絆の証」。ちりばめられた「秘密」が明らかになるとき、見えてくる「絆」の物語を楽しみにしたい。
(文・やまゆー)
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