『サクラダリセット』「集中して見てくれる方との心理戦」川面真也監督インタビュー
アニメ2017-04-26 19:30
さまざまな能力者が住む街・咲良田を舞台に繰り広げられる青春群像劇「サクラダリセット」。各自の限定された能力がそれぞれ組み合わさり、ロジカルでミステリー的な組み立てとヒューマンドラマが合わさりながら、やがて大きな動きを見せていくストーリー展開が視聴者を離さない。完結した小説原作ならではの牽引力をどのようにアニメに転換していったのか、川面真也監督に話を聞いた。
伏線が張り巡らされた小説原作をアニメ化する手法とは
── 近年、川面監督はマンガ原作の作品を手がけることが多かったですが、「サクラダリセット」のような小説原作作品の場合では、映像作りへのアプローチは変わりますか?
川面 マンガであっても小説であっても、原作があるものについては演出するうえで基本的にあまり違いはありませんね。マンガだとなるべく原作の絵を生かそうとはしますが、小説の場合はその絵に当たるのが読んだときに頭の中に浮かぶイメージになるというだけで、あまり作り方としては変わらない感じですかね。
── 「サクラダリセット」の原作を読まれて、どんな印象を受けましたか?
川面 原作は文庫で7冊出ているわけですが、すべて読んではじめてわかることがあるという構成が珍しく、大胆だなと思いました。リッチに時間をかけてラストへ向かっていくという、全体を使った構想が読み終わった時の印象としては強かったですね。
── そうした構成をTVシリーズとしてアニメ化するにあたっては、どのように考えましたか?
川面 理想としては、なるべく原作の狙い通りにやりたくて、第1巻から順に1~2話分くらいのシナリオを作ったのですが、いざ構成してみると24本のシリーズには収まらなくて。原作がやっている伏線の張り方だと、特に序盤戦はどうしても時間がかかってしまうんです。そこで原作でいうと、第3巻からスタートさせて時系列順に並べ、わかりやすさと合理性を優先させて、その中にもフックは入れつつ、主役たちの行動原理がある程度わかる形でスタートしようということになりました。
── 原作は昔にさかのぼって「実はこうだった」というエピソードが多いので、それをスッキリさせたという印象でした。
川面 そのどちらがいいのかという話は会議でも出ました。「実はこうだった」というのがだんだんわかっていく面白さというのも十分わかっているんですけど、その作り方はどうしても尺を取るんです。小説では1冊の中でわかっていくものがアニメだと第5話とか第6話になってしまうので、最初の第1~3話くらいでわからなかったら、なかなか視聴を継続してもらえないんじゃないかと、シリーズ構成の高山カツヒコさんから「第3巻からがいいんじゃないか」と提案いただき、この形になりました。
── 第1話、第2話の後、その続きはまた別のタイミングで描かれます。こういった構成の作りも高山さんが?
川面 そうですね。シリーズ構成は全部、高山さんにやっていただいています。ちょっと気楽なエピソードや、番外編的なエピソードはどこに入れるかとかも高山さんのアイデアですね。なにせ本編の時系列がけっこういろいろなので入れどころに迷うし、そもそもそんな気楽なエピソードを入れている場合なのかというのもありましたが(笑)。ただ、原作が完結している作品であるということは、ある意味ありがたいことです。目的地が見えているので、そこにブレはありません。僕も原作を読んでみて、最後までやることで全部が生きてくるという作りだと思ったので。全体の尺が2クール分と決まっている以上、細かいエピソードは入れられないことがどうしてもあるんですけど、最後までやるということに意味があると考えていました。
── 川面監督の作品は、細かい芝居とか空気感、時間の取り方を大事にされていると思います。それを今回のようなタイトな構成になった場合、何を残して何を外すかというジャッジはどのようにされましたか?
川面 高山さんはロジカルな方ですので、原作のそういうところもしっかりと理解してシナリオに盛り込んできてくれます。それに対して僕は雰囲気重視というか(笑)。キャラクターの心情とかセリフ、もうちょっと盛りたいエピソードを入れていきます。お互いに提示し合って、いいところで混ぜ合うみたいな感じでやっていましたね。
── 川面監督の作品は、セリフのテンポ感がとても不思議に感じられます。作品ごとにある一定のテンポ感がある気がしていて、本作でもセリフ回しが独特で、音楽も相まってとても引き込まれました。
川面 そのあたりがどう見えているのか、自分ではわからないんですよね。尺がとにかくなくて、テンポ良くやらなきゃいけないというのはわかっているのですが、自分の間の感じが賛否あると思っていて。でも僕としては定石通りやっているつもりなので、どのへんが不思議なんだろう(笑)。間を長く取るというのはたしかにそうかなと思うんですが、第1話はほとんど詰めつめでやっているんです。だから、集中して見てくれる人には何かがあると思ってもらえるんですが、逆に“ながら見”だとたぶん上滑りしちゃうと思うんですよね。僕自身、アニメや映画を見る時は、部屋を暗くして集中して見たいタイプなんです。自分自身がそうなので、想定する視聴者もそのタイプで、この展開だとダルいと思われるかなとか、まるで心理戦のように作っているんです(笑)。1話のなかに何個もそういうしかけをして、そのうち1個か2個でも伝わればいい、というやり方をしています。でも演出家って皆、そうだと思うんですよね。
── 演出にあたっては最初にどのようなプランでいこうと思われましたか?
川面 実は原作小説を読んで最初にプランニングしたのは、今のまったく逆のタイプの形だったんです。キャラクターがひと言なにか言って、音楽と風景だけでしばらく見せるような、意味ありげな余韻とか情景みたいなもので心情を表していこうと。原作を読んだ人は、割とそういう印象があると思うんです。なので、そういう演出には絶対いいだろうという音楽家の人を指名させてもらいました。音楽さえあればその演出ができると思っていたのですが、いざシナリオ開発をしていくうちに、そんなことをやっていたら最後までたどり着けないということがわかってきたので、音楽自体はそのままで、使い方を今やっている方向にシフトチェンジしたというのはありますね。
── 音楽のRayonsさんはアニメの劇伴を担当されるのがはじめてですが、どんな魅力を感じられて声をかけたのですか?
川面 僕はYouTubeでPVとかを見るのが好きで、もともとはRayonsさんが組んでいるPredawnさんという人を見ていたら、そこにRayonsさんが出てきて、そのPVがすごくよくて、アルバムを買ったんですよ。そのあとライブへ行ったときに、ちょうど「サクラダリセット」の原作を読んでいて、Rayonsさんの曲がいいなと思ったんです。それで会議の席でもRayonsさんのPVを見せて、「こういう世界観でやりたい」みたいな話をして、プロデューサーから声をかけてもらってOKをいただいたという経緯です。ご本人も、映画音楽をやりたかったみたいで、たぶんそういう方向にも仕事をされていくんじゃないかと思います。彼女もアニメは初めてだったので、テクニカルなところを注文するよりもフィーリングで作って欲しい、というところもありまして、原作を読んでいただいて、打ち合わせの中でRayonsさんなりの「サクラダリセット」の世界観を作っていただきました。
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