【懐かしアニメ回顧録第22回】キャラクターの“歩き方”で幼少時代を描く、細田守の「デジモンアドベンチャー」
この9月、劇場アニメ「デジモンアドベンチャーtri.」が公開される。デジモンシリーズのアニメ作品は、1999年公開の「デジモンアドベンチャー」が最初で、同作は細田守監督の劇場アニメデビュー作でもある。わずか20分の短編でありながら、ていねいに細部が描きこまれ、充実度の高いエンターテインメントに仕上がっている。
語るべき点の多い作品だが、今回は主要キャラクターたちの“歩き方”に注目してみたい。
子どもならではの足どりの危うさ
主要キャラクターといっても、主人公の太一、妹のヒカリ、そしてコロモンという名のモンスターだけである。
太一は7歳、ヒカリは4歳。まず気がつくのは、両親の顔が映らない演出。子どもの目線の高さにカメラを置いているため、母親も父親も胸のあたりまでしか映らない。そのカメラアングルは、大人の存在を排除した、子どもとモンスターだけの秘められた世界の物語であることを示唆している。
さて、太一は夜中に、ヒカリがコロモンの卵を手に入れるところを目撃する。太一は二段ベッドの上段からハシゴで降りようとするが、足を踏み外してしまう。翌朝、まったく同じアングルで太一が二段ベッドから降りるカットがあるが、やはり、足を踏み外す。この繰り返しは映像にテンポを与えるための演出かもしれないが、太一の運動神経が十分に発達していないことを表している。
太一はヒカリに朝食の目玉焼きをつくってやるが、キッチンに手が届かず、椅子の上に座って調理している。「二段ベッドからちゃんと降りられない」「キッチンに手が届かない」シーンを続けることで、太一の年齢なりの未熟さが強調されているように感じないだろうか。
太一が調理している間、ヒカリは幼児用の椅子に座って、待っている。しかし、胸に抱いていたコロモンの卵が、勝手に転がりだす。ヒカリは椅子から降りて追いかけるが、卵はあちこちに転がり、まるで追いつけない。太一は、卵を足で踏みそうになって、姿勢を崩してしまう。このシーンでは、自由自在に動き回るコロモンの卵が、幼い兄妹の運動神経を凌駕していることを示している。
ヨチヨチ歩きするコロモンの未熟さ
卵からかえったコロモンは目と耳しかない真っ黒なカタマリだが、素早く動き回ることができる。さらに進化したコロモンには口があり、話すことができる代わりに、ネコに負けてしまうほど動きが鈍くなる。
夜中になって、コロモンは2メートルほどの二足歩行恐竜へと進化する。ヒカリはコロモンの背中に乗って、ベランダから夜の団地へ飛び降りる。コロモンは走ってきた車のあとを数歩だけ追いかけて立ち止まったり、幼児のような歩き方をする。そのヨチヨチ歩きは、コロモンの幼さを巧みに表現している。いっぽう、コロモンとヒカリを探して、太一は団地の中を汗だくで走り続ける。しかし、いつまでも追いつけない。身長2メートルのコロモンのほうが、太一より歩幅が広いからだ。
体の大きさや体力では、コロモンは太一をしのいでいる。同時に、言葉を話さなくなり、反射的に自動車やヘリコプターを攻撃しようとする。4歳のヒカリですら、本能のままに動きまわるコロモンを止めようとするほどだ。
その後、敵のデジモンに襲われたコロモンは、ティラノサウルスがツノを生やしたような大型恐竜へと進化し、地響きをたてて二本足で疾走する。その堂々たる走りっぷりは、コロモンが兄妹を追いこして、完全に成長してしまったことを、ありありと示している。だが、それでもコロモンは太一とヒカリの味方だ。なぜなら、敵のデジモンは鳥のような大きな翼をもち、空から現れるからだ。一緒に走ったり、追いかけっこをしたことで、コロモンと太一たちは「地面」というフィールドを共有した。「空」から現れ、ほとんど地面に触れないデジモンは、彼らの共有体験の外部からやってくる。だから、敵なのだ。
太一とヒカリ、コロモンにとって、「地面」は幼少期をともに過ごした、かけがえのない場所なのである。
(文/廣田恵介)
(C) 本郷あきよし・東映アニメーション
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