【懐かしアニメ回顧録第19回】アニメにおける「メカ」の役割を、「ジャイアントロボ 地球が静止する日」で考えてみる
“僕たちの見たいメカアニメをつくろう製作委員会”から生まれたロボットアニメ「RS計画 -Rebirth Storage-」が、今月(2016年6月)放送される。
1992~98年にわたって展開されたOVA「ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日」は、しばしば「ロボットアニメの原点に立ちかえった」と評されてきた。シリーズ開始の1992年に「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」が終了した……と聞くと、「ガンダム」的なハードなメカニック描写から、パンチを主体に戦う「ジャイアントロボ」への世代交代が行われたかに見える。
また、「ジャイアントロボ」は、主人公の草間大作をのぞいて、味方の国際警察機構、敵のBF団ともにエキスパートと呼ばれる超能力者ばかりだ。彼らの破天荒な活躍シーンが「理屈抜きで、おおらかだった昔のテレビマンガに先祖がえりした」かのような印象を強めているのだろう。
ミサイルの着弾描写に見る戦闘描写のリアリズム
主役のジャイアントロボは、パンチや怪力で勝負をつけることが多い気がする。第1話では、列車の変形した敵のロボット“維新竜・暁”をパンチだけで破壊している。第3話で、土偶のようなロボット“ウラエネス”を倒したときも、パンチを使っている。
しかし、パンチで勝ったのはその2回だけで、あとはもっぱら体内に内蔵した火器で戦っているのだ。
第2話前半、大作少年を助けるため、ウラエネスの前に駆けつけたときには、胴体両肩のベルト部が開き、4連装ミサイルポッドが左右2基ずつ、計4基がせり出し、全6発のミサイルを発射。そのうち3発は海面に落ち、残りの3発はウラエネスのいるハイウェイ周辺に着弾するものの、命中はしない。このカットはロボの主観映像で、画面全体がウラエネスに向かって突進するような、すさまじい臨場感をかもし出している。
また、4基のミサイルポッドは、フレームやコードが細かく描かれ、塗り分けられている。そうしたディテールの描きこみや、ミサイルの着弾が最初はズレて、一発ずつ敵に近いところに当たりはじめる(ロボが敵に向かって飛んでいるため、各ミサイルの飛距離が少しずつ異なっている)描写は、パンチ一発で敵を粉砕する単純明快な戦闘シーンとは、まるで別作品のように見える。
第2話後半では、逃げ出したウラエネスを追撃するため、両腰から突き出た榴弾砲を使う。榴弾砲を撃つたび、火薬の光が周囲を照らすうえ、空になった薬きょうを排出するカットまである。しかも、カメラの前を横切る薬きょうはマルチプレーン撮影によって、ピントがボケているのだから、念が入っている。
「ガンダム0083」でハードな戦闘アニメが一段落し、「ジャイアントロボ」で理屈ぬきのレトロ調ロボットアニメ路線が始まった――そう、簡単な話ではないようだ。
メカの描き方が、作品の世界観を変える
ジャイアントロボの胴体肩部のベルト部分には、構造的にアバウトな部分がある。第1話前半では、輸送船から降ろすためのアームを接合するバーが内蔵されている。ところが、第4話の回想シーンでは、背部ロケットを受け止めるためのバンパーが内蔵されている。では、一体どこにミサイルポッドを収納するスペースがあるのだろう? と不思議に思っていると、第7話ではミサイルポットを外部に弾きとばして、その下からバンパーが出てくる。
要するに、同じ個所に違うメカが入っているのだが、最後には、ちゃんとつじつまを合わせている。「メカの構造が矛盾しているのは、こちらもわかってるんだよ」と、観客に目くばせしているかのようだ。
第2話のラスト近くでは、地割れが起きて地面が崩れるが、なぜか主要人物のいる部分だけが、舞台装置のように天へと伸びていく演出がある。歌舞伎のように、「ウソだとバレているけど、ドラマチックに見せるため、わざとやる」演出が、「ジャイアントロボ」には多い。観客との約束事で成り立っている作品であることは間違いない。
だが、送り手と受け手の共犯関係は、楽屋落ちを招きがちだ。予定調和を避けるため、前述した「ミサイルの着弾がズレる」ような、「ガンダム」もかくやといわんばかりのリアリスティックな演出をおりまぜて、作品の調和を乱す。リアリティの軸をブレさせることで、単なる「原点回帰」にも、安易な「先祖がえり」にもせず、何が起きるかわからないエキサイティングな作品を目指したのではないだろうか。
そして、作品のリアリティの軸をブレさせたいとき、もっとも使いやすい小道具――それが「メカ」なのではないだろうか。どんなシリアスな作品でも、自動車がでたらめに描いてあったら、世界観がぶち壊しになる。そんな不思議な力を、アニメの「メカ」は持っている。
(文/廣田恵介)
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