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今年立て続けに中国で公開された日本のアニメ映画。しかし一筋縄にはいかない模様
中国では、今年1月に
「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]I.presage flower」 、2月には
「君の膵臓をたべたい」 、
「さよならの朝に約束の花をかざろう」 、3月には
「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」 、
「マジンガーZ / INFINITY」 、
「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 〜2人の英雄〜」 と、日本のアニメ映画が立て続けに上映されました。
ですが、それらの映画の興行収入は「夏目友人帳」が1.15億元(約19億円)に達した以外はどれも4000万元未満、「マジンガーZ」に至っては約40万元と、中国の感覚ではパッとしないあるいは惨憺たる結果と受け止められる数字になってしまったそうです。
近年の中国では、映画が手軽に楽しめるコストパフォーマンスのよい娯楽として歓迎されていますし、当たった場合は数億元規模の興収の数字が出ることも珍しくありません。そういった感覚もあってか現在の中国では興収に関しては億元超えでようやく「それなりに見れる数字」という印象になるのだとか。
そして過去に「君の名は。」が大当たりしたものの、ここしばらくの間、中国で公開された日本のアニメ関連作品で億元超えの興収になったのは「夏目友人帳」以外は「ドラえもん」や「名探偵コナン」、「となりのトトロ」などの定番ブランドの作品しかないことから「日本のアニメ関連の映画は大体爆死している」 といったようなイメージも出てきてしまっているそうです。
このあたりを見ていくと、現在の中国における日本の映画コンテンツの展開の難しさ、商業的な成功に結び付く作品人気の種類といった事情も見えてきます。 実は今年になってから中国で公開された作品は、どの作品も「中国に熱心なファンがいる」とされていた作品です。 しかし、作品の人気が、ライトな層や「アニメも見る」といったレベルの一般層にも広がっているわけではなかったり、知名度が高くとも作品の内容がマニア向けだったり、楽しむために必要な前提知識が多かったりといった、中国で「一般向けではない」 とされる部分もかなりあったそうです。
さらに宣伝もあまり活発ではなく、ファンであっても「中国国内上映に関する情報を知らなかった」 「上映期間のピークが過ぎてから上映されていたのを知った」 などという人が少なくなからずいたそうです。 もちろん積極的にアンテナを伸ばしている層は上映に関する情報を把握していたそうですが、映画の興収に大きく影響するライト層、一般層への情報の拡散に関してイマイチだったのは確かなようです。 また上記に加えて、スクリーン数の確保の問題もあったそうで、中国のオタク系のコミュニティでは近場の映画館では上映されていない、上映回数が少ない、休みや夜の時間帯に上映されていないといった嘆きもかなり目に付きました。
このような状況の中で唯一成功したと見なされている「夏目友人帳」ですが、ほかの作品とは明らかに違う部分も見て取れます。 まず人気についてですが、「夏目友人帳」は、2008年のアニメ第1期から現在に至るまで、主に女性を中心に広い範囲で長期間人気を維持している作品です。 現在元気のある若いオタク層だけでなく、上の年代のオタク層や、「日本のアニメも見ることがある」程度の層における人気も高く、それがそのまま好調な興収の数字につながったところもあるそうです。 さらに現地での展開も非常にしっかりとしていたそうで、大作映画の合間を狙った公開スケジュールや、アイドルを起用したプロモーションなど、かなり考えられた、広い範囲の中国の観客に刺さるものとなっていたそうです。
このあたりに関して中国のオタクな方の話によれば「今年入ってきた日本のアニメ映画に関しては、中国に日本の映画を持ってくる際の配給の能力の影響がくっきりと出たように思えます」 「『夏目友人帳』には、『君の名は。』の中国での配給にも関わった光線伝媒(エンライト・メディア)が関わっていますが、オタクからの批判はあるものの、やはり国内市場に対する映画作品の展開はとても効果的でうまいですね」 とのことでした。 近年の中国では、ネットで配信されるアニメに関して作品のクオリティ以外にも、きちんとした宣伝や視聴しやすいプラットフォームがなければ人気が拡散するのは難しいなどと言われていますが、映画はネット配信よりもさらに作品以外の部分、宣伝や環境の整備による影響が大きいといった話があります。これに加えて、映画に関しては人気や話題の拡散に関しても、熱心なファン以外の一般寄りの層、作品知識のない人を十分に取り込めなければ厳しいといった話も聞こえてきます。 現在の中国市場において日本のアニメ関連映画作品が商業的に成功、あるいは失敗しないためには、作品のクオリティと中国映画市場向きの人気や話題性に加えて、現地に刺さるような宣伝やスクリーン数の確保などを実行できる体制がいるということなのかもしれませんね。 (文/百元籠羊)
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(C) 緑川ゆき・白泉社/夏目友人帳プロジェクト