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MBS、TOKYO MX、BS11、AT-Xほかにて好評放送・配信中のTVアニメ「RELEASE THE SPYCE」(以下、リリスパ)。
キャラクター原案・なもりさんによるかわいらしいキャラクターも魅力の本作において、企画原案/シリーズ構成を務めているのがタカヒロさんだ。タカヒロさんといえば「アカメが斬る!」や「結城友奈は勇者である」を手がけた人物としても有名で、本作ではどのような展開を見せるのか気になるところ。
そこで今回はタカヒロさんを直撃。彼のこれまでの作品を知っている方なら気になることから、制作秘話、キャラクターの由来、さらには趣味嗜好までたっぷりとお話をうかがった。
テーマは「師匠と弟子の絆」
――単刀直入に聞きます。「リリスパ」では鬱、ありますか?
タカヒロ あまり言うとオリジナルの面白さがなくなっちゃうのですが、少なくとも「アカメが斬る!」や「結城友奈は勇者である」のような展開とはまったく異なります。
――皆さん心配していましたが、このスパイスに副作用は?
タカヒロ ありません。(現役時代に)ばりばりスパイスを使っていたカトリーナさんが今元気にしていますし。皆さん心配させてしまい、すみません(笑)。
――ネットの反応や動画のコメントを見ると、どうしてもそこが気になるみたいで。
タカヒロ 過去作の経歴から、そう思われてしまうのも仕方ないと思います
――いつ頃から言われるようになったのですか?
タカヒロ 2014年に放送した「アカメが斬る!」と「結城友奈は勇者である」が大きかったですね。なので、今回の第1話の感想も「面白いけど、なんか死にそう」「スパイスで廃人になりそう」というのが多くて(笑)。
――そこも気になる本作ですが、どういったところから企画がスタートしたのでしょうか?
タカヒロ 2015年頃に「結城友奈は勇者である」のプロデューサーの方々とお話する機会があり、「結城友奈は勇者である」を走らせながら別の企画もやってみたいよね、という話になったんです。しかも、なもり先生がキャラクター原案をしてくださると。ただ、せっかくなもり先生の絵を使わせてもらうなら、「ゆるゆり」と同じ現代の日常をやっても仕方ないなと思って。
その当時「キングスマン」や「コードネーム U.N.C.L.E.(アンクル)」といったスパイ映画が流行っていたので、アクション多めのスパイ作品なんてどう?というお題をいただいたんです。僕自身スパイ作品が好きだし、「ゆるゆり」が大好きだったので「ぜひ!」という感じでやらせていただきました。
――スパイ映画はどのようなものを見ていましたか?
タカヒロ 最初はやっぱり「007」シリーズですね。それまでスパイ映画には重厚なイメージを持っていたんですが、「007」は何でもありな感じでこういう方向性もあるんだと思って。それからはエンターテインメント性のあふれるものを中心によく見るようになりました。
――スパイ映画と言っても、いろいろありますからね。
タカヒロ そうなんです。「裏切りのサーカス」のように重厚なのもあるんですけど、自分に合うのはノリのいい作品だなと思って。そちらに振って企画を固めていきました。制作を進めていると、「プリンセス・プリンシパル」が発表されて。でも、「プリンセス・プリンシパル」は作風が違ってよかったと思いました(笑)。そして、とても面白かったです。
――「リリスパ」はシリアスな方向よりも、アクションやコメディ要素もある作品になっていますからね。
タカヒロ はい。ノリやコメディを大切にしつつ“師匠と弟子”という組み合わせを作り、スポ根的な要素といいますか、主人公が成長していく話を入れようと思いました。
――では、本作のテーマを改めて言葉にすると?
タカヒロ テーマは「師匠と弟子の絆」、「人から人に受け継がれていくもの」です。
――3組の師匠と弟子、それぞれに物語がありますからね。
タカヒロ そうですね。それぞれの師弟がどうなるのか見てもらいたいです。
キャラクター誕生秘話を公開
――キャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
タカヒロ なもり先生ということで、女の子の関係性は期待されると思うんです。なので、まずは女の子の関係性が色濃く出るシステムとして“師匠と弟子”を作りました。
その中で、主人公の源モモは真っ直ぐでちょっと間抜けなところもあるけど、従順で一生懸命がんばるタイプ。そうすると師匠の半蔵門雪は厳しい感じ、だけど独特な雰囲気を持っている。その2人ができあがったら、今度は喧嘩もするけど仲がいい友達のような相模楓と八千代命のペア。そして、逆に家庭的なおっとりしている石川五恵と青葉初芽、と振り分けました。まずモモたちを決めて、違いを出すためにいろいろなパターンを作っていった感じですね。
――ちなみに、PCゲームを作っていた頃、女の子が6人ということにこだわりがあると発言されていたのですが、本作も6人ですね。
タカヒロ そのくらいの数だと好みのキャラクターを見つけやすいのかなと思います。昔からの癖なのかもしれないですけど(笑)。
――こだわっているというよりは癖だと。
タカヒロ そうですね。今回も師匠と弟子の3ペアでバランス的に落ち着きました。1クールだとそれでもちょっと多い気はしたんですけど、4人だと少ないですし。
――キャラクターの名前やコードネームは実在の忍者の名前をモチーフにしています。有名な忍者が多いですけど、青葉初芽は少しわかりにくいでしょうか。
タカヒロ 初芽は、石田三成に仕えていた忍の“初芽局”から取っています。かわいい3匹のマスコットであるカマリ、モノミ、ラッパも地方で忍者のことを呼ぶ呼称なんです。とにかくメジャーどころの名前を選んでいったつもりです。
――カトリーナも由来があるのですか?
タカヒロ 上杉謙信に仕えていた加藤段蔵という忍びがいて、飛ぶように早いから“飛び加藤(鳶加藤)”と言われていたんです。だから、カトリーナ・トビー(笑)。
――組織名のツキカゲには何か特別な意味を込めている?
タカヒロ 特別な意味はなく、忍者をイメージしやすい名前としてツキカゲにしました。キャラクターの名前や格好は“日本のスパイ”ということでわかりやすく忍者をモチーフにしているのですが、実は作品を海外で売っていくことも視野に入れて海外の方がとっつきやすいものにしたんです。
――そうだったんですね。実際に海外の方の反応はいかがでしたか?
タカヒロ 放送前に海外のバイヤーに買っていただけるよう交渉したところ、とても評判がよくて。狙いがまずはうまくいきました。
――格好も忍者服+制服という感じですからね。
タカヒロ そうですね。女子高生と日本らしさを追求したらこうなりました(笑)。
――以前の作品も海外展開は考えていたのですか?
タカヒロ 「アカメが斬る!」と「結城友奈は勇者である」は全く考えてなかったです(笑)。
――忍者もそうですし、海外の人は日本人以上に「007」が好きだと思いますからね。
タカヒロ だから、名前もなるべくメジャーどころの忍者を使おうと思って。半蔵門雪や石川五恵はすぐに決まったんですが、そこから先は結構考えました。
――石川五恵はそのままで一番わかりやすいです。
タカヒロ いかに五右衛門とくっつけるか悩んで、こうやるしかないと思いました(笑)。
――五恵がいることで、ほかの人の名前も忍者から来ていると気づけますね。
タカヒロ 雪は半蔵門線(東京にある地下鉄の名前)の存在に感謝しています。その名前がなじんでいるからこそ、半蔵門という苗字が違和感なく出せましたから。
――雪の部分もなにか由来があるのですか?
タカヒロ そこはキャラクターの雰囲気に合わせてです。モモも親しみやすい名前にしたかったので、百地(百地三太夫。本名:百地丹波)の“もも”というやわらかい語源だけもらいました。
“舐める”特技はある意味、美味しかった!?
――主人公の源モモは“舐めるとその人の体調がわかる”という特技を持っています。どのような発想から生まれたのか教えてください。
タカヒロ 女の子とコミュニケーションをしつつ、スパイ物として生かかせる特技は何かと考えました。舐めればわかるということは、たとえば敵を捕まえた時にも自然と舐められるわけですよね。エンターテインメントとして絵面的にも面白く美味しいので、“舐める”はいけるなと(笑)。第3話まで見た方はわかると思いますが、第1話以降も敵であろうと舐めにいくので注目してください。
――特技でありつつ、ちょっとしたご褒美にもなりますからね。
タカヒロ 結構有効ですよね。そう思っていたら……「ジョジョの奇妙な冒険」の第5部(「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」)が同時期に放送されると知って、「あ!」って(笑)。第2話のサブタイトルは「ブチャラティが来る」ですし。でも、逆においしいかなと思っています(笑)。
※編注:ブチャラティは、汗を舐めることで嘘をついているか見抜ける特技(自称)を持つキャラクター
――そして、大きな特徴なのがスパイスです。何かをすると能力が開花されるという設定は昔からありましたけれど、スパイスを使ったのはなぜ?
タカヒロ きっかけは、企画の段階でプロデューサーからの「“スパイ”ということで料理を使った“スパイス部”はどうでしょう」というひと言だったんです。ギャグではあるけど、エンターテインメントとしてはわかりやすいなと思って。極論で言えば、スパイスは体にいいというのもありますし。エンターテインメント性を突き詰めました。
――物語的には、第1話から謎や気になるポイントも織り込まれていました。
タカヒロ そうですね。第1話のラストに「ツキカゲの人間が1人、モウリョウに寝返りたいと接触してきました」とあって、第2話、第3話でもそれが形になり始めます。モウリョウもその人間をまだ完全に信じていませんし、シリーズを通して内通者は誰なのか推理するのも楽しみのひとつだと思います。
――スパイ映画のオマージュも随所にあるそうですね。
タカヒロ はい。たとえば、大幹部である“文鳥の女”が第1話で白い文鳥を愛でているのは、「007」で敵のボスが白い猫をなでている有名なカットのオマージュです。ほかにも、車が3秒で100kmに突入するのはスパイ映画に出てくる、とんでも車のスペックですし。今後もいろいろと出てきますよ。あと、各話のサブタイトルはすべてスパイ映画やスパイドラマのタイトルのもじりになっています。
――さらに、スパイ作品の見どころとして“道具”があります。本作にもたくさん出てきますね。
タカヒロ 女子高生が使えそうなものをチョイスしました。
――その中でも会心の出来だった道具は?
タカヒロ やっぱり体を透明にするクリームですね(笑)。第2話で初芽が紹介していましたが、今後実際に使われるので期待してください。あとは、リップスティック爆弾も女子高生が使うものとして小回りがいいのでよく出てきます。そういったスパイ道具をひとつひとつ覚えておくと、最後のほうはより楽しいかもしれません。
作品とリンクする師匠と弟子の関係、役者としての成長
――モウリョウの面々も個性豊かです。敵のキャラクターはどのように作られたのでしょうか?
タカヒロ 倒すべき目標である“文鳥の女”は、なもり先生が本当にいいキャラを描いてくださいました。さらに、「リリスパ」は少年誌的なノリもあるので、幹部やほかの仲間を用意した感じですね。ただ、テレジアや白虎だけだとビジュアルとしてかわいすぎるんですよ。ひとりごついのが欲しいなと思ってドルテを作り、早見沙織さんにお願いしました(笑)。
――早見さんもリクエストだったのですね。
タカヒロ そうです。本当に上手な方なのでドルテというキャラができた時に「これは早見さんじゃないか」と意見が出てきたんですよ。
――キャストが発表された時に驚いたのがドルテでした。
タカヒロ 早見さんならきっとやってくれるだろうと(笑)。第3話では出オチのようになっていますが、またちゃんと活躍しますから。
――メインキャストはオーディションで決めたわけですが、モモ役に新人の安齋さんを抜擢した決め手はどこだったのでしょうか。
タカヒロ 師匠を演じる方々は先にオーディションで決まっていたので、安齋さんには師匠や弟子組とのかけ合いもやってもらい、その関係性を見て決めました。このようなオーディションは初めてでしたね。だから、ラジオでの弟子3人の組み合わせもとってもいいバランスになりました。藤田茜さんに負担がかかっていると思いますけど(笑)。
――役としてだけでなく、本人たちの相性もよかったのですね。
タカヒロ 彼女たちは、キャラと自分のイメージが近いよねと言ってくれて。そう言われてみると、確かにイメージが近しい方を選んだかもしれません。
――師匠組についてはいかがですか?
タカヒロ 師匠なのでデンと構えてほしいなと思って、そういうイメージで選びました。皆さん「このキャラがしゃべっている」という感じがよく出ていたんですよ。特に沼倉愛美さんは、もう完全に雪だなと思って決まりましたね。
――安齋さんはタカヒロさんの作品がもとから好きだったそうで、主人公に選んだ人からそのように言われるのはいかがでしたか?
タカヒロ 本当に嬉しいですね。ここまでやってきた姿を見ても、安齋さんにお願いしてよかったなと思います。もちろん、本人も言っているように安齋さんが頑張れたのは、師匠役の沼倉さんの面倒見のよさや音響監督の熱血指導などがあってこそで、本当にみんなのおかげです。そうやってモモと一緒に安齋さんが成長していくのを見るのが嬉しいというか、リンクしているのが個人的に嬉しかったですね。収録現場でも毎回応援させてもらっています。
――声優としても師匠と弟子という感じだったのですね。
タカヒロ そうですね。毎回沼倉さんが安齋さんの演技につきあって、一緒に残ってやっていました。素晴らしい関係だなと思います。沼倉さんは本当に役に対してストイックな方なので、そのストイックさは本当に雪のようだなと。
――第1話で用心棒を福山潤さんが演じるなど、ゲスト役を豪華な方が演じられているのも注目です。
タカヒロ 女性キャラクターがメインの話ではありますけど、用心棒のように男性を出す場合も濃いキャラクターにしようと思いました。第4話では杉田智和さんの演じたキャラクターが出てきますので、楽しみにしてください。
――本人たちも楽しそうに演じていたと聞きました。
タカヒロ そうなんです。ゲストの方々も陽気に盛り上げてくれたんですよ。福山さんはBパートのモブでも出ているんですが、「Bパートはいります」という時に1番大きな声で「はい!」とやってくれたり。皆さんノリノリでした。
「つみあげた努力と、その成果が、自信につながる」に込められた意味
――最近のアニメは第3話が注目されがちです。第3話というタイミングについてはどのような印象持っていますか?
タカヒロ よく「3話まで(見て継続するか決める)」と言うじゃないですか。やっぱり3話までで物語の方向性を示していると思うんですね。「リリスパ」はモモの成長物語であり熱いところのある作品だと、3話までの中で提示できたんじゃないかなと。
――第3話で鬱展開にならなくてよかったと思った人もいそうです。
タカヒロ もしそうするなら、確かに3話ぐらいでその方向にしていかなきゃいけないんでしょうけど、この作品は成長物語にしたかったんです。なので、このままの感じで応援していただければ、ツキカゲとモウリョウの戦いを楽しめると思います。
――本作に関わらず、タカヒロさんが物語を作る時に忘れないようにしていることがあれば教えて下さい。
タカヒロ “キャラクターの芯がブレないようにすること”ですね。これをやったらモモじゃないでしょ、これは違うでしょ、とかそういうのです。自分で言うのもあれですが、僕は結構ほかの人の意見を聞いて柔軟にやっていくタイプなんです。でも、全部を全部聞いたら「じゃあ自分はなんなんだ」となってしまうので、キャラクターの芯だけはブレないように、というのはいつも心がけています。
――それはどんなジャンルや、どのメディアで展開するか関係なく、ということですね。
タカヒロ そうです。どの作品もキャラクターありきだと思っているので、キャラクターを大切にすることだけは曲げないでいこうと思っています。
――そこはPCゲームを作っていた経験もあるかもしれないですね。ちなみに、タカヒロさんはどのような作品を見て育ち、影響を受けたのでしょうか?
タカヒロ 僕はジャンプ黄金期を見て育った世代なので、そのあたりのマンガですね。映画も好きなんですけど、マーベルシリーズや「スター・ウォーズ」など、熱さや少年活劇的なところが根底にある作品が好きで。そういった意味では、「リリスパ」は自分の好みがモロに出ていると思います。
――週刊少年ジャンプといえば、「友情・努力・勝利」ですが。
タカヒロ そうですね。それはありますね。あとはひと握りのスパイス(笑)。
――スポ根作品も結構見ていたのですか?
タカヒロ めちゃくちゃ見ていたわけではないですが、努力して強くなるのは好きですね。でも、最近は“努力の多様さ”があると思っていて。ちゃんと考える熱さというかタクティクス的な熱さがありますよね。ただ真っ直ぐ努力するだけじゃなく、「考えて努力して、結果を出しましょう」というのが「リリスパ」にもあります。
雪が「つみあげた努力と、その成果が、自信につながる」と言っているのもその考えからです。「つみあげた努力が、自信につながる」ではなく、成果までをセットに考えているところは自分なりに現代に寄せているところですね。このセリフは作品のテーマのひとつでもあるので、最後まで覚えておいてもらいたいです。
――その現代的な熱さを楽しむのもいいですし、なもり先生のキャラクターかわいいよねって見てもらうのもいいですし。
タカヒロ それだけでも全然構わないです。本当にかわいいので(笑)。
――タカヒロさん自身は、どういうタイプのキャラクターが好きなのですか?
タカヒロ ストレートにツリ目のお姉さんが好きです。それは今までの自分の作品を見れば隠しようがないですね(笑)。でも、意外なことに「ゆるゆり」では(赤座)あかりが好きなんですよ。あんなに癒やされるキャラクターはいないなと。本当に天使だと思って癒やされていました。
――「リリスパ」でいえば雪とモモですね。ということは、この師匠と弟子のセットはバッチリなんですね。
タカヒロ やっぱり自分が好きなモノじゃないと(笑)。そこはこだわりました。
――最後に、後半の見どころをお聞かせ下さい。
タカヒロ 第3話まで見ていただいた方には、本作はモモが真っ直ぐ頑張っていく話だと伝わったと思います。今後は、命と楓や初芽と五恵の師弟がどういう物語を辿っていくかも楽しみにしてもらえたらと思います。そして、内通者は誰なのか、それぞれの人間関係、モモの成長も見てほしいです。
(取材・文/千葉研一)