昔のヒーローものならではの、いい意味での振り切り方
──松本監督も、やはり当時「ガッチャマン」はお好きでしたか?
松本 それはもちろん。僕が小学生の頃に放映されていまして、よく見ていました。
──その、昔見ていた「ガッチャマン」の映画を今回監督することになったわけですが、今のお気持ちはいかがですか?
松本 本当に感無量ですよね。と同時に、歳取ったなあと(笑)。緊張もしましたが、本当にこれでいいのかなという気持ちもありました。
──最近、昔のアニメのリバイバル作品が多く作られていますが、どの監督にお聞きしても、異口同音に「本当に僕でいいのかな?」とおっしゃられますね。それだけ、元の作品に対するリスペクトが強すぎるのかなとも思いますが。
松本 それもありますし、自分が実際に関わるまでは、どこか遠い世界の存在という感じがしていたんですよね。それが、自分が関わるようになって思うのは、本当にこんなんでいいのかな?という気持ちです。すごくリスペクトが強い半面、世界が狭くなってしまったような寂しさも感じなくはないですね。
──でも、お仕事自体は楽しかったのではないですか?
松本 実は、こういう正面切ったヒーローものに関わるのは、僕は初めてなんです。なので、とまどいはありました。ただ、テレビシリーズから引き続き作業してもらっているスタッフさん達の仕事を見ると、そこは思い切って振り切っている感じでした。というのも、今のヒーローではなく昔のヒーローなので、割とアイデンティティがしっかりしているようなところがあって、たとえば、今回、南部博士の声を演じている船越英一郎さんはちょうど僕と同世代ですが、アフレコ前の話し合いでテレビシリーズのセリフ回しは現代的ではないという印象だとおっしゃいました。でも、それは実はわざとだろうという結論に。今のアニメのヒーローで考えれば、ちょっと正直すぎて恥ずかしいくらいのセリフを真顔で正々堂々と言っちゃうわけじゃないですか。そういう「曇らない人」のある種カッコよさを表現するためには、照れてたらダメで、こんなの当たり前だというように堂々と言ってのけたほうが説得力があると思うんです。
──船越さんの南部博士はかなりよかったと思います。ちょっとイメージと違うかなと思っていたのですが、見たら全く違和感なしでした。
松本 そうなんですよね。昔からこの役やってたんじゃないかというくらい、ハマってましたね。もちろん上手い役者さんであることは承知していましたが、ここまで本当に役になっちゃうんだと驚きました。
本作に隠された、松本監督のこだわりポイント。ヒントは変身シーン
──少し話は変わりますが、今回、モーションキャプチャーで作品を作ってみて、どう感じられましたか?
松本 モーションキャプチャー自体に携わるのは初めての経験でしたが、それこそ実写に近い部分がありますよね。撮影自体は。本作に関して言えば、CGを担当するデジタル・フロンティアさんがすでに何年もやってきている部分でもあり、ノウハウがありますので、キャラクターの動きなどに関してはしっかり作っていただいています。僕はそれに見て、こうやったほうがいいとか、こっちじゃないとつながらないなとか、映像的なつながりの部分を中心にディレクションしたという感じです。なので、3DCGの実制作部分はほとんどお任せだったのですが、手描きアニメをやっている人間からすると、本当に新鮮な現場でした。
僕は、割と自分の意図に、スタッフさんたちの仕事を押し込めようとするんですけど、今回に関して言えば、現場の方が「そのようには動けない」と言えば、それで任せるしかないわけです。でも、任せたことで、自分の想像よりもいいものができたり、新しいものができたりといったことが何度もあって、感動しました。
──手描きのアニメでも、現場のアニメーターさんの力量とかアイデアで、監督さんが思ってもみなかったようないい仕上がりになることはあると思いますが、それとは違う意味での感動ということでしょうか。
松本 そうですね。もちろん手描きのアニメもいいんですけど、改めて人に任せてみるのもいいもんだなーと。いろいろ勉強になりました。
──テレビシリーズからこの劇場版に至る「Infini-T Force」ですが、フル3DCGでの制作ということも含めて、かなり挑戦的な作品であると感じています。この先には、世界進出なども見据えているような気がしているのですが。
松本 どうでしょうかね(笑)。確かにタツノコプロの初期の作品は海外でも人気がありますし、海外でのセールスは見込んではいらっしゃると思いますが、ただ「アベンジャーズ」とか「ジャスティス・リーグ」と同じようなものを作っても意味がないと思いますし。本作でいえば、劇場版でもまだ昔のシリーズの懐古というか原点回帰的なところで止まっている気がしますので、これから先、このシリーズならではの展開があれば、面白いとは思いますけどね。
──本作を監督するにあたって、苦労したことなどがあれば、お聞かせください。
松本 まあいろいろ苦労はあるんですけど、今回は本当に楽しくて、自分にとっても勉強になる仕事でした。逆に僕の力足らずな部分もあったと思うので、また機会があればやらせていただきたいなあと思っています。
──最後に、ここだけは見てほしいという、思いのこもった部分があれば、お聞かせください。
松本 実は、本作の中で、原作の「ガッチャマン」の設定に引き寄せようとしたけれども、実は原作の設定とは合わずにズレている部分が何か所かあるんです。そのヒントは変身シーン。本来の設定では、科学忍者隊のメンバーは普段からバードスーツを着ていて、それが普段着の形を取っているだけで、ブレスレットから発せられる特殊な振動でバードスーツに変身するわけですが、その設定をそのまま適用しようとすると、話としてつじつまが合わない部分が出てきます。僕もそれが最初は気になっていたんですが、よくよく考えていったところ、そのズレに意味があると感じるようになりました。実はそこに本作ならではのテーマが隠されています。皆さんも何かおかしいなと思ったら、そこに何が隠されているのかをちょっと考えてみてください。
──なかなかマニアックな見方もできそうですね。ぜひ劇場で確かめていただければと思います。本日はありがとうございました。
【作品紹介】
■「劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」
・公開日時:2018年2月24日(土)
・配給:松竹
<ストーリー>
戦いの末に自分たちの世界を取り戻し、それぞれが生きるべき場所へと戻ったガッチャマン=健、テッカマン=城二、ポリマー=武士、キャシャーン=鉄也の4人。しかし彼らはある目的のため、笑と共に再び時空を超えて一つの世界へと降り立った。
そこは平和を脅かす人類の敵「ギャラクター」が猛威を振るい、それに対抗するガッチャマン率いる「科学忍者隊」が戦い続けた世界。だが、その世界の様子に違和感を覚える彼らの前に、一人の男が姿を現す。それは科学忍者隊の創設者、南部博士。見知ったはずの健に不審な表情を向ける南部は、ヒーローたちに思わぬ言葉を告げる。「どうやら君たちは私の敵らしい」と……。
そして、その様子をビルの上から見つめる一つの影があった。それは健と共にギャラクターと戦い続けた、科学忍者隊のナンバー2。その名を“コンドルのジョー”。
4大ヒーローの新たなる激闘が、スクリーンで幕を開ける!
<スタッフ>
・監督:松本 淳(「閃光のナイトレイド」「PERSONA -trinity soul-」監督)
・脚本:熊谷 純(「PSYCHO-PASS サイコパス2」脚本、「アクエリオンロゴス」シリーズ構成)
<キャスト>
・ガッチャマン/鷲尾 健:関智一
・テッカマン/南 城二:櫻井孝宏
・ポリマー/鎧 武士:鈴村健一
・キャシャーン/東 鉄也:斉藤壮馬
・界堂 笑:茅野愛衣
・佐々岡:遠藤 綾
・コンドルのジョー/ジョージ浅倉:鈴木一真
・南部博士:船越英一郎
(C) タツノコプロ/Infini-T Force製作委員会