ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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ホビーアニメという「常識」を揺さぶる、大人のアニメ

観賞手段:CS/BS/ケーブル、ビデオ/DVD、動画サイト
分類としては玩具「カブトボーグ」をテーマとしたホビーアニメだが、ホビーアニメという「常識」それ自体をパロディにするメタな試みが行われている。
このジャンルの主人公たちといえば明朗活発で年相応の児童たちというのが定番だ。しかし本作のリュウセイ、勝治、ケンたちの人物像は、こうした「常識」に慣れた人をこそ揺さぶりにかかる。例えばリュウセイは「カブトボーグ」を愛する熱血漢で典型的主人公に見えるが、愛が行き過ぎてか勝利のためには手段を選ばない。相手の心を揺さぶる精神攻撃が得意で、作中でも「悪そのもの」と断罪される(同ジャンルにおいて、主人公が相手の弱点につけ込んで勝つが卑怯とはされない矛盾のカリカチュアとも取れる)。おまけに金にも汚いのだから、ホビーアニメという常識から近いようで遠く、遠いようで近い存在だ。勝治はいわゆる“ブルー系”、クールだが激情を秘める、病弱なモテ系頭脳派なのだが、激情が行き過ぎて対戦相手に毒舌を振るい、本当に死んだり、複数の女子と交際したり、そもそも勝治という名前自体がクールなイメージとほど遠い……とこちらもテンプレートを逸脱。ケンに至っては小学生なのにやたらとドライで、常識という身も蓋もない視点から突っ込みを入れるのだ。
誰かが死亡しても世界が滅んでも次の回にはなかったことになっていたり、それまでの話にはいなかった4人目の「仲間(オジサン)」が突如登場して主要キャラクター面をしたり、毎回新たなヒロインが登場するなど、物語作りの上でもホビーアニメという常識が徹底的に破壊されている。しかし、単に破綻したものが流されるだけかというと決してそうではなく、どの話もバトルやストーリーがキッチリと盛り上がる。先の読めなさに「このスタッフたち、今回の話では何をしてくるんだろうか」と毎回ワクワクさせられるのである。こうした変幻自在の物語を手がけるのは、大和屋暁氏、下山健人氏、浦沢義雄氏といった実力派たち。基本ができていなければ変化球は投げられないというわけで、そうした意味ではアニメを沢山見てきた人こそが楽しめる作品といえるだろう。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
4.0
キャラクター
5.0
音楽
4.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 4.5
いいね(0) 2023-08-31 17:42:17

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