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「月刊少年マガジン」にて連載中の、あだちとか氏作による大人気コミック「ノラガミ」を、「おおかみこどもの雨と雪」の助監督で知られる新鋭タムラコータロー監督がテレビアニメーション化!
黒いジャージにスカーフ姿という変わった出立ちの夜ト(読み:やと)は、祀(まつ)られる社のひとつもない貧乏でマイナーな神様、自称“デリバリーゴッド”。そんな変わり者の夜トと、ひょんなことから半妖(はんよう:魂が抜けやすい体質)となってしまい夜トと行動を共にするようになった良家の令嬢・壱岐ひより、夜トに拾われ“神器”(神様が使う道具)となった雪音(ゆきね)の3人が、さまざまな問題を乗り越え絆を深めながら、人間に害を与える“妖”(あやかし)との戦いに身を投じていく姿を描く。
そんなアニメ「ノラガミ」の制作舞台裏をタムラ監督に直撃してきました! 前編・後編にわたってお届けします。
(取材・文・写真/山崎佐保子)
【前編】
―――早速ですが、テレビアニメ「ノラガミ」の企画はどのように立ち上がったのですか。
ボンズのプロデューサーの南(雅彦)さんが、原作の第1話を読んだ瞬間に「これは!」と思ってツバをつけていたみたいですね。
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「おおかみこどもの雨と雪」が終わったあたりで、「うちで何か監督できない?」というお話をいただいて、そのひとつが「ノラガミ」だったんですよ。実は僕はあんまりマンガを読まないのですが、その当時も「ノラガミ」を知らなくて。当時は単行本が4巻まで出ていたくらいの頃だったかな。 |
―――そうだったんですね。 原作の表紙を見て「上手な絵を描かれる方だな~」なんて思いながら読み始めると、最初に思ったものと違った部分にすごく面白さを感じたんです。「ノラガミ」の面白さは、「この作品こうでしょ」と思わせといて、「あれ、そうじゃなかったの?」というギャップかなと。原作のあだちとか先生がどれだけ狙っていたのかわからないけれど、神様のお話、妖のお話、刀のアクションというのは、パーツパーツだけで取り上げるとどこかで見たことあるような要素なんですが、その組み合わせが非常に面白い。王道に近い作品でありながら、意外とこういう組み合わせなかったな、というところにたどり着く。いわゆる“中二病”設定に見えるかもしれないけれど、扱っているテーマの中には万引きやいじめや自殺など、とてもハードなものも含まれているんです。その生活に根ざした怖さのおかげで、作品に奥行きが出ていると思いますね。
―――とてもポップで取っ付きやすい第1話を見る限りでは、この物語がどんどんハードな方向に向かっていくなんて想像できませんよね。
アニメを見る人たちって、何か楽しみたいから見るわけですよね。1話から重たいテーマだと「もういいや」となってしまう可能性もあるので、後々はハードな展開になるとしても、その入り口部分は気を付けましたね。ただし原作とやりたいことはいっしょで、常に原作に沿いたいと思っています。 |
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―――大筋のストーリー展開をどうするかなど、原作のあだちとか先生と意見の交換などはされたのですか?
もちろん先生とはお話しています。基本はお任せいただいているのですが、代わりにノラガミの担当編集の方が毎回必ずシナリオ打ちに出席されていました。原作でハッキリと描かれていない心情部分や設定に関して分からないことがあると、すぐにあだちとか先生に電話で確認してくださっていましたし、脚本や絵コンテは毎回お渡ししているので、ここは外したくないという部分に関してはご指摘いただいています。
最初に集まって企画したメンバーで誰しもが原作を読んで思ったことは、「主人公3人が一番大事だよね」ということ。その関係性でストーリーを作ろうというのは統一されていたかな。最近は相棒モノも多いですが、「ノラガミ」はヒロインの壱岐ひよりがぐっと食い込んでくる部分もあり、夜トと雪音の話だけかというと、やはり違うわけです。一見、雪音が悪さをしてそれを夜トが導くメンター的な役割で、ひよりはそれを見守るだけの狂言回しなのかなと思ってしまいがちですが、実は3人それぞれに足りない部分があって、支え合ってうまく補っている。その3人の支えている部分と支えられている部分をうまく出していこうと。この3人の関係性がすべてと言っても過言ではないくらい、“疑似家族感”がこの作品の大きな魅力だと思いますね。
―――キャラクター造形にはかなり気をつかわれていますよね。女性ファンが多いというのも、ひよりのキャラクター性が大きいのかなと。
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ひよりがイヤな子に見えないようにと、かなり気をつかいました。3人の中でひよりが一番視聴者寄りの視点なので、ひよりに共感できないとなると作品が異質なものとして受け取られてしまう。また、傍観者として存在しているだけじゃなく、ひよりもいっしょに話に参加してドラマになっていくというのがポイントですね。ひよりの視点だけになるのもちがうな、と。 |
―――「ノラガミ」はハードさを内包しつつも、テンポやコメディ要素でうまくそのバランスをとっていますよね。タムラ監督の演出のこだわりとは?
シリーズの最初は毎回問題が生じて、それを主人公が“斬る”ことで解決という構造にしておくとわかりやすいかなと。アクション系で悩んだのは、主人公の刀の切れ味が非常に鋭いという設定なので、妖(あやかし)程度だったら一発斬って終わりなんです(笑)。よほどのことがない限り、手こずってはいけない。そうするとひと振りしたら終わりなので、音楽をかける時間もなく、盛り上がらない。 |
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そこであだちとかさんや担当編集さんと一緒に決めゼリフ的なものを考えたんです。「豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)~」というやつですね。人によっては「早く倒せ!」って人もいるかもしれないけど(笑)。
画面演出は極彩色や水彩調など極端なものも考えたのですが、心情表現をていねいに描く作品では、そういうものはかえってじゃまかなと。一周してスタンダードに戻したんですよね。ポイントポイントで変わった画も入れるけれど、主人公たちが見る人のそばにいるような感じにしたかった。ギャグとシリアスのバランスは毎回悩んでます。映像的にはシリアスだけにすると楽なんですけど、それだけでは観ていてギスギスしてしまう。
―――本編の作りはスタンダードに戻したというお話でしたが、オープニングはだいぶエッジが効いていますね。
やりたいはやりたいんです、そういう尖った表現(笑)。軽いノリで始まる作品なので、後半のシリアス展開を匂わせたかったという意図もあります。人間をていねいに描いている原作を生かすためにスタンダードにしてるけれど、違和感がない範囲でのエッジの効かせ方はしているんですよ。深夜放送なので、エンディングはほっと穏やかな気持ちで終わってもらいたいなという感じにしています。
―――「おおかみこどもの雨と雪」での経験が、その人間ドラマ作りに何かしら影響している部分はあるのでしょうか?
「おおかみこどもの雨と雪」でどうのというのはないと思うのですが、原作がそもそもそういう作品なので、僕がそこを面白いと思ったからなのかな。バトルを描いた作品は多いので、それだけやっていても埋没しちゃう。作品の個性として、内面をしっかり描くほうが最近少ないかもとも思います。そういう王道の作品がちょっと減っているかなと。王道というのはよくある物語ということではなく、”主人公の成長物語”ということです。僕は子どもの頃はNHKくらいしか見せてもらえなかったので、子ども向け作品がそもそも好きで、そこには何かしらの教訓、友情や努力が、短い尺の中できちんと描かれていたと思うんです。
―――確かに。この作品って、あからさまな“萌え”要素がなくて、女性でも入り込みやすいです!
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“萌え”要素って、近年では定義があいまいですよね。当初は違う意味合いのものだったけど、最近だとポルノまがいのものになってる。本来は、描かれていない部分を妄想して楽しむのが“萌え”要素だったと記憶しています。僕はアニメにお色気要素はあっていいと思っているけど、お茶の間が凍り付いちゃうレベルのものにはしたくなかった(笑)。 |
作品の話でいろいろと盛り上がってほしいのに、恥ずかし過ぎて会話ができないレベルだと困りますよね。僕が中高生だったら見たいなというレベルのものがいいのかなと思っています。
―――ひよりの爽やかなパンチラが素晴らしいですよね。イヤらしさをまったく感じません。
ええ。原作でも見せてますし無理矢理隠すのはやめようと(笑)。ただ直後に誰かがギャグを入れたり、パンツが見えていても顔はギャグ顔だったり、ちょっとハズしてる感じですね。パンツを見せるためのカメラアングルとかはやめようと。見えるという表現ではあるけれど、必要以上にエロくはならないようにしてるつもりです。
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